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正直どうでもいい

こんな名前ですが好きな漫画の感想をかくブログです

一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻

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   私の『希望』は、先輩の苦しみや、彼の妻を、踏み台にして、やっと『恋』になる。
 
「あげくの果てのカノン」2巻が出ています、結構前に。遅くてすんません。
今年1巻がリリースされた作品の中でもかなりお気に入りな一作。
不倫恋愛×SFという悪魔的合体、そして主人公の暴走とともにストーリーもカオス。
崩壊した世界でたっひとつの想いに振り回される、かわいらしい、悪党の物語だ。どうしようもない片思いの顛末の物語だ。誰かを不幸にすることでしか完結しない恋だ。誰かを。己を。

前回→炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻




1巻がとんでもない所で終わったのですが、しすかに幕を開ける第2巻。
呆然としたまま、変わりない日常にもどるかのん。
あの一件の後になるとその日常が守られてることの価値を、痛いほど感じる。
変わらない世界の代償に、変わって変わって変わり果てていく先輩に、胸が締め付けられる。
そんな所にやってくるのだ。超、重要人物!

kanon22.jpg

奥様襲来!

「今度はあなたなのね」という、ああもう、こんなヒドイ言葉ってあるのかと。
明らかな敵意をもって目の前にたつ彼女に、かのんは立ち向かえるわけもなく。
大好きな男性に世界でたったひとり選ばれた女性に、凍てついた視線を浴びるのみ。

きましたねー、非道徳的な恋愛をしているシチュエーションにおいてこれは重大イベント。
個人的にはまだまだ先の話かと思ったら、2巻からガッツリと奥様・初穂さんが絡んでくる展開。
かのんがしていることは。かのんが抱く想いは。初穂さんを傷つける。
それと知っても恋をやめられない以上、かのんと初穂さんは火花散らせるしかない。
だめなことだとしても、好きな人のあたたかさに触れてしまったとき、世間体なんて単なる「つまらない話」に成り下がってしまう。

不倫と覚悟して踏み込んだ部分は間違いなくあって、そもそも報われると思っていたわけでも無い。
けれど目の前に、自分の恋が万が一成就したときに転落させてしまう人物が現れたとき
どこまで想い貫くことができるかは、ひとつの分岐路だと思う。
「恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲーム」って、不倫したミュージシャンも歌ってた。
そしてかのんは今回、ひとつの決心を持って、いや決心もできぬまま、周囲を巻き込んでいく。



この作品は適度のアニメチックで、そして純文学的でもあって
読んでるとき、セリフのひとつひとつに、かのんの淋しげなモノローグに、まるで耳をそばだてるかのように慎重に文字をメでゆっくりと追いながら読んでしまう。

2巻はスタンダールの恋愛論から引用がされていて
「恋が生まれるには、ほんの少しの希望があれば十分だ。」のフレーズが登場する。
まさにこの作品にぴったりだし、ひねくれた脳みそしているので一瞬立ち止まってしまえば「しゃらくせぇ!」と思ってしまうようなポエミーな演出にも感じる。でもやはり、そんな小さな恥ずかしさは吹き飛んでいく。いやむしろもっとしゃらくささと出していってほしい。こういうの大好きだから。
この作品は神秘的に聴かせてくれる。言葉が持つ小さな棘までも、ありのままに操っている。
湧き上がる切なさ、行く当てない絶望、血管を駆け巡る興奮、狂信的な恋のありさまを。
余すこと無く。
作者が慎重に、絵と言葉を紡いで漫画にしていることが感じられるんですよね。

かのんが先輩の顔に触れたときの「私は今、神さまに触れている。」ははっとさせられるような、グロテスクさと祝福を感じました。
グロいって先輩がじゃない。あの場面そのものが。

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「正しい」という言葉の意味を、もう一度見つめ直したくなる。
8年間思い続け、叶わなかったはずの恋。それが果実のようにいま目の前に実るとき、
『どんな控えめな女でも、希望を見た瞬間 目が血走る』。




変わり続ける先輩。かのんにキスをしたあと「ごめんね」と言った先輩。
先輩に愛されることの幸福と、「不倫する先輩」を信じられない、アンビバレンスな混乱が彼女の脳内をぐるぐる巡る。
問い詰めるかのんにたいして、先輩があきらめたような表情とともに言ったセリフが
どこか作り物めいた印象の先輩らしからぬ、人間くさすぎるセリフでたまらないのです。
「人はそう単純いられないから」と。
ドキッとしますよね。どんなに体がおかしくなっても先輩は人だし、生きているし、ときに間違えを犯す。
そして浮き彫りになる、かのんの強烈な信仰心と盲目。
かのんは、先輩を人として、自分と同じ生物として、捉えられているだろうか。
そこに強烈な距離がないだろうか。

不倫をする。自分にたいして冷たい声をかける。
そんな新しい先輩のいち面すら、かのんにとってはある種ファンタジーのようなものなんだろうなとも思う。
究極的には自分が満たされたいだけのエゴをいつしか見出されてしまう。
自分の恋に「発狂」する彼女の姿は、人間として根っこにある汚い部分、幼い部分、そしてとてもかわいらしい部分のように感じますね。見ていて危なっかしくて仕方がないけれど。

先輩にまつわる思い出のエピソードに、パッヘルベルのカノンがありました。
内省的な少女だった幼いかのんは、自分の名前がコンプレックスだった。
自分には到底似合わない、美しい名前だと言って。
しかしそこに境先輩がパッヘルベルのカノンをピアノ演奏したことを知り、
かのんにとって自分の名前が、価値あるものに変貌する。
先輩はある彼女からコンプレックスを拭い去り、本当に救済となり得ていたと分かる。
「生きる希望」とまで呼べてしまうほど、強大すぎる存在感。
そう考えると今の2人の距離感ってすごいことなってるよな。キスまでしたぞ。




さてさて、2巻ではさらにサブキャラクターたちの心情も描かれだして
これまた一層ストーリーが面白くなってきています。
かのんの弟と先輩の奥さん。当事者と家族として接してきた人物のうちに秘めた感情とは。
悲恋萌えをこじらせるとかのんの弟くんとか可愛すぎて仕方がないし、
初穂さんも、いまの彼女を形成した歴史が紐解かれたことで、魅力がうなぎのぼりってもんです。
第10話とか幸せすぎて何も言えなかったですからね。
境さんの恋人として、また妻として、研究者としてどんどん新しい一面が見えてくる至福。

戦闘による欠損修復によって書き換えられていく個人の人間、「心変わり」。
初穂さんは研究者の立場からその現象について理解をしてたし、それをさせないための研究に熱意も燃やしていた。・・・現状、自分の旦那の心変わりを止める手立てはないが。
旦那が浮気をしていることを知っているし、むしろなんかめっちゃ隠しカメラで観察している。
その上で旦那を牽制する。
いっときの浮ついた感情より「結婚」という契約の重大さを、その価値を。
まるで隠しナイフをつきつけるかのように、彼女は彼に問うのだ。
初穂さんの側からこの物語を観たとき、あまりにも残酷で、ゾクゾクする。

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そして印象的だったのが、かのんが友人と不倫の恋について話していたときに出た
「結婚って、なんなのだろうか」という問い。
ここでは、いろいろ変化があるのが当たり前だから互いの変化を許し合えるようになっていく「結婚」なのかな、という表現がされている。
この作品がもっと未来へと進んだとき、登場人物たちはそれぞれどんな答えを持っているのだろうか。一度ここに立ち返って比較してみるのもきっと面白いはずだ。



そんなこんなの第2巻。
1巻も面白かったが、正直2巻から一気に加速してきたように感じます。
ここまで来て、恋愛漫画に抵抗がない人にはひろくおすすめできる領域に来たような。
織り込まれてた様々な立場のキャラクターの感情と、理屈をときに凌駕する暴力的な恋心。
甘酸っぱくて、ほんのすこし血の味の混じった、ダークでポエミーな作品です。

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ああ、かのんのこの眼が、夢を見るばかりの人間ではなくなっていて
寂しいやら嬉しいやら、きっと不幸が待ち受けると知る、悲痛な覚悟だ。

改めて2巻の表紙を見てみる。
崩壊した都市、
夕焼けの世界、
着たままのレインコートと風に流される雨傘、
かのんのむかう先には先輩が待つ。けれど地続きではない。彼女はそこにたどり着けるのだろうか。
かのんは先輩に「やさしくしたい」と言う。先輩を苦しめているのは自分なのに。そして先輩を苦しめられるほどに彼の人生に食い込めたことの幸福と残虐な信仰が並び立つ。
先輩を思って無邪気にストーキングしてたときの方が、よほどいい顔していたのに。

『あげくの果てのカノン』2巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
めちゃくちゃ面白い、おい・・・感情揺さぶられまくる。じっくりと世界に浸りたい。

完結記念 この柳の浮かれっぷりがヒドい2016 in 最終巻 『ラストゲーム』11巻

過去記事 1巻→[漫画]小学校から大学へ、10年かけて挑む恋のバトル 『ラストゲーム』1巻

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   泣いても傷ついてもそれでも好きっていいたいの

「ラストゲーム」完結記念!!!!
この柳の浮かれっぷりがヒドい!!!!!
2016を開催いたします!!!!!!

勝手に選びました。さっそくネタバレ全開だ、振り落とされんなよ!

第5位!!!!!

ラスゲ112

付き合うことになりました

わ、わ~~!あるある!こういうやつ!浮かれちゃって改まって報告しちゃうやつ!!
浮かれきった柳の顔に一瞬「かわいそうなことにならないかな」という念も浮かぶが
これまでのことを思えばもうちょっと過剰なくらい幸せになってくれてもいいよ、柳は。
しかし「いえ~い」の軽いノリ、ここだけ大学生テンション強くて笑う

真面目に感想を挟んでいくと、ようやく念願かなってついにいよいよ、
焦れったくて勿体ぶられて仕方がなかった柳と九条もお付き合いスタート。
ラストゲーム最終巻となる11巻は切なさ20%、幸福度3億%ぐらいの比率。
言葉にならないくらいのハッピーエンドが全力全開でめくるめく。
これは戦争だ。天乃忍先生は、こちらを殺すつもりでかかってきているんだぞ。

第4位!!!!!

ラスゲ114

取り残されてキレる柳

めんっどくせーな!!!そういう所がかわいいんだよ!!!!!
付き合ったとたんにもう「仕事と私どっちが大事なのよ!?」のテンションである。
しかもこいつ少女漫画のヒーロー役なんだけどな。

第3位!!!!!

ラスゲ113

あまりに恋人が可愛すぎたため崩れ落ちる柳

これまで不憫な出来事が続きすぎたため、九条が本当に彼女になってくれたことに
脳の処理能力が追いつかずたまにこうなる。かわいいしか言えなくなるとき、あるある。

第2位!!!!!

ラスゲ111

にじみでる気持ちわるさ

俺の大好きな柳がそのまま全面に出ている柳。彼がもっとも輝いている瞬間である。
嬉しいあまりいちいち「はあ・・・九条が俺の彼女かぁ~~~~」とか再確認ばかりしてしまう。
しかもそれが口に出てしまうから最高!柳!やったな!ドン引き!

第1位!!!!!!

ラスゲ115

俺のこと好き?

言わせたいだけじゃねーか牢にブチこむぞ!!!!九条と二人きりにしてやる!!!!
直前にでこちゅーを挟んでくるのもポイント高いですね、とびきりのイタズラ顔も眩しい。
相手の反応見て楽しむような余裕を持ってしまうほど調子に乗ってる柳もムカつきますが最終巻だしまぁね。いやそれにしてもひどいよ、愛されキャラすぎるぜ柳。



以上、散々たる浮かれっぷりをご覧いただきました。なんだよいやヒドイものだよ・・・
女漫画のヒーロー役として、こんなに情けない姿を見せてもいいんですか?
なんとか言ってやってくださいよ九条さん!!

ラスゲ116

かわいすぎ😇😇😇😇😇😇😇😇😇😇
だめだ~~~鉄壁の九条さんですら陥落してしまった~~~~~幸せな家庭を築いてくれ🏠

思う存分にイチャついてもらったところで、まだ本番は残っているのです。
迎えるは結婚式、その当日、そしてその未来。
余すとこなく彼らの満開の笑顔を噛みしめて、俺の頬はゆるゆるさ。



恐るべきは上にあげたシーンはすべて第54話に収められているという所。
なんと付き合いたてのエピソードは54話、その次はもう最終話で結婚式。
正直を言えばもっとたっぷりと、幸せを味わっている2人を見ていたかったように思うけれど
まぁこれまでも両片思いシチュをひたすら突き進んでいた彼らのことだから、この1話だけでも満腹ありますね。
もうほんっと・・・・・・・・・この2人、可愛すぎる・・・
結婚式も、オマケ漫画での未来も、サブキャラたちの関係性も、全てキラキラとまっすぐ輝いていた。

1巻のふたりのゲームが始まったあの夜をフラッシュバックさせ、それと重ねるエンディングも見事。
1巻第3話から始まったゲームの勝敗も、第6話の指輪の予約も、全部やりきる。
最終話はもう王道中の王道。
ほしい展開がほしいままに来るような、答え合わせみたいな気持ちでした。
思えば1巻が出てから5年近くが経っています。
クラクラしそうなほどに甘く幸福な2人を見ていると、当然ながら作中10年と続く腐れ縁を決着されたという意味でも、長期連載の幕引きという意味でも、すばらしい時間に立ち会えた喜びのような思いさえしてくるのです。


告白に至る流れも、これまでまったりとしていた本作らしからぬ疾走感でたまらない!
あの九条が、柳のために空港まで走って向かい、息も落ち着かないまま勢いでドン。
あれだけ焦れったかった、焦がれるのも飽き飽きした、けれどずっと欲しかったシンプルな恋の告白はついに柳の耳を捉える!泣くわ!
落ち込んで柳からの着信も取れない九条の切ないワンシーンとかもね、かわいすぎる。
告白の場面となっては、本当に今にも泣きそうで、ただわけも分から走り出してしまうようなただの女の子。
理性的な彼女らしくない、けれどだからこそ言うことのできた言葉でもあったように思います。

そしてそんな告白をアシストした蛍くん。やはり最後まで、愛された失恋キャラでしたね。
結婚式で撮影係をしていた彼が、九条に向けて「笑って!」と本心から言うことができることに、
そしてかすかな痛みを感じる要素も入れ込んでくるあたりもニクい演出。
桃香様ともやりともも微笑ましくて大好きだった。

特別編もオマケ漫画もぎっちりとサービス精神が詰まった嬉しい内容ばかり。
さらに8巻から引き続きドラマCD付き限定版も同時発売。またこのドラマCDがいいんだよ。
ドラマCDでしか聞けない結婚式での一幕をふくめ、オリジナルエピソードも。
最終巻のお祝いに、お得感たっぷりと約50分のボイスドラマ、こちらも是非。
個人的には、九条とお母さんのやりとりがグッときた。そうなのだ、九条という女の子を語る上で、母親の存在は外せない。強い絆で結ばれた母子の歴史を感じるようなスペシャル感のある演出だ。
通常版と限定版で表紙も違うので俺は両方買ってしまいました。
本編通りのウェディングな九条も最高だが、神前式での九条もまた最高。柳は両方なんか笑える。

作者も書いていたけれど、九条の満面の笑みというのはこれまで意図的に封印されていたらしい。
だからこそ、溢れ出した恋がかなったとき、そして永遠を誓う式のとき、彼女はこれまで見たこともなかった最高の笑顔を見せてくれる。
蛍くんが向けたカメラへの力強い返しを見て、なんだかほっとしてしまった。
あんな顔をされたら、安心してしまうほかないんです。

個人的な思い入れの強さもあって、リアルタイムで追い続けたラブコメだけに
終わってしまうことはとても寂しいですね・・・読めば幸せになれる薬みたいな(怪しい響きだな)作品だった。もとは1巻で完結していた作品で、好評だったからってことで10巻も増えてしまった本作。
1巻の完成度から評価も高かったですが、いやいや、よくぞ続けてくれた。
積み重ねた年月の重みが、そしてボリュームをましたストーリーに読み手の想いも募って
成熟した作品になったなと感じます。読み続けてよかった本当に。
すれ違ってばかり、から回ってばかりの、柳と九条の物語を読むことができてよかった。


最高のハッピーエンドをありがとうございました!
次回作楽しみです。趣味全開の悲恋ものも待ってます!

『ラストゲーム』11巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
10年をかけた恋のバトルの行方がここに。感極まるエンディングでひたすらニヤニヤできる。
柳くんをこバカにしたような記事を書いてしまって気分を害されたらすみません。柳大好きなんです・・・

ナイト・イズ・スティル・ヤング.『アフターアワーズ』1巻

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   私たちの夜は、まだ始まったばかり。

ヒバナで連載中。ゆるふわオシャレ系クラブ百合漫画という唯一無二のジャンルを切り開く「アフターアワーズ」の第一巻の感想です。
陰キャラとして全力で人目を避ける学生時代を過ごしたものとしては
「渋谷のクラブ」なんてワードはもはや許しがたい程のパリピ力を持っており
半ば憎しみめいた感情が湧く・・・かと思いきや
渋谷のクラブとか、アングラなDJ文化とか、女性の同棲生活とか、
自分にとっての未知がたっぷり詰まった世界が展開され、しかもそれが輝いて見える。
そんな魔法のような空間にすっかり魅了されてしまうのですよ。

誰かと出会うことで世界が変わる快感。
それは人でも音楽でも同じ。
きっと人は未知のなにかに魅了されることをどこかで願いながら生きている。
クラブは別に人との出会いの場だけではなく、新しい音楽に夢中になれる場でもある。
むしろ音楽好きが集まるわけで、そりゃあ話があうやつもいるかもしれない。
新しい何かに触れられる小さな箱庭。現実も、ちょっぴり忘れられる。

「ミラーボールの下でゴリゴリEDMでウェイしながら酒のんでクネクネするんでしょ?」
・・・とんでもない。クラブはいいぞ。都会は眩しいぞ。音楽は楽しいぞ!ワクワクすんぞ!!
個人的にはこういうタッチでDJ文化を描いた作品は読んだことがなくて、この界隈への興味も湧いた。ひとつの職業・文化を取り扱うマニアックな視点も素晴らしい。
それでいてシンプルに、女性同士のココロの交流を描いた作品としてもレベル高い。
キラキラした素粒子がガンガン放出されている、そんな漫画です。
都会の夜のエモさ、ここにあり。



で、そんな素晴らしい作品がまさかそんな事態に陥ってるとは・・・
けっこうタイムラインを賑わせたこのツイート。
自分もなんかできたらってことでブログを書くわけですが。
こんな騒動が無くてもいつかは言及したいなと思っていたので
みんなもっと読んでくれ!!!!という気持ちで更新です。

まぁとにかく。紹介がてら今更ながらの1巻感想です。




主人公のエミは友人に連れられ気乗りしないままクラブにやってきた。
そこで出会ったケイに関係が含まっていき、深夜のクラブ文化に触れていく。
夜の楽しみ方。知らない音楽の聞き方。音楽の新しい聞き方。VJってなに?

「知らないでしょ?とろろこんぶのおにぎり 探して買ってきて」
一夜を共にしたあと、そう微笑むケイ。非常に印象的な第一話のセリフ。
この漫画のテーマを言ったいるように思えます。きっと探せば見つかる、もしかしたら意識してないだけでそばにあるかもしれない、でもこれまで見えていなかった新しい何か。
美味しいかもしれないし、口に合わないかもしれない。でも、それを知るために。

アフアワ11

VJとはDJが流す音楽に合わせて、リアルタイムで映像を編集する人。
初挑戦で身震いするほどの興奮を味わったエミは、そこから新しい音楽の味わい方を知る。
音楽が楽しい瞬間。あの高揚が、本作は爽やかに描かれている。
そしてその快感を初めて味わって、ドキドキしてたまらない感触。これが清々しいのです。

ケイさんの伸び伸びした立ち振舞いが、俺が思う「都会的」そのもので、憧れがある。
彼女のまとっている空気がそのままこの作品のカラーになっているように感じる。
奔放で、ちょっとミステリアスで、なのに笑顔ばかりが似合って、
楽しいこと全部やりたいだけやってしまうようなエネルギーがあって。
あと部屋が超かっこいい。

ケイさんの過去が語られていく中で、たどってきた悔しい思い出や
好きばかりの情熱だけではなんともならなかった現実も見えてくる。
クラブイベントの主催側の事情が垣間見えてドキドキするんですけど
そこらへんは知識豊富な作者だからこそ踏み込めた領域なのだろうとも思う。

細かな部分を言えば構図や演出が凝っているシーンがとても多くて
ひとつの画集のような気持ちでページを開くこともできる。
内容もそうだけど作品全体がなんかもうオシャレなんだよな。
例えば第3話のラスト、はじめてVJをやって打ち上げして、店から出たらもう朝で。
スタッフたちが真っしろな朝の街をゆっくり静かに歩いて行く見開きなんか
映画のクライマックスのような情緒感があふれていてたまらない。
間のとり方や、吹き出しの工夫とか、上のような「魅せる構図」とか
あと内容とセリフと演出が完全にバチッとハマってたこのシーン

アフアワ12

後ろで車が通りすぎて、逆光で一瞬ケイさんの表情が見えなくなるんですけど
あまりにカッコよすぐてスマホの待受にしたくなった。




エミちゃんが彼氏とズルズル同棲しているっていう設定もグッとくる。なるほど浮気百合。
百合漫画というにはいわゆる恋愛要素はそんなに濃くはなくさっぱりとしている。
しかし、エミちゃんがケイさんがべったりと甘えてるような、精神的にも
どんどん拠り所としていくその様子にホッコリしてしまうのだ。
むしろ1話でずいぶん性急にセックスをしたことが
ケイさんもあの夜に酔ってしまっていたことがわかる嬉しい部分。

アフアワ13

ふたりとも、もう大人といえる年齢なんですよ。
けれどまるで楽しいことしかこの世にないような夜を知っている。何度も足を踏み入れる。
大人だからこそ知る現実の辛さを、それを忘れさせてくれる夜の時間の、描かれる日常バランスの巧みさ。
音楽を楽しむことはそういう心の豊かさをくれることんだと感じさせてくれますね。

音楽漫画というほどズンズン言わせていないんですが、「音楽を楽しむ空間」への強い愛情が感じられる漫画なんですよね。プレイヤーよりではなくむしろ客席のほうに近い。
秘密めいた都会の夜の香りがする、いい漫画なんですよ。
俺もこの漫画を読んでからクラブ行きました。ニジロックっていうアニソンと邦ロックばっかり流れる岐阜アニクラなんですが、楽しくて大体2ヶ月おきに行ってます。
個人的にはそういう楽しみをくれた意味もあって大好きな漫画です。
クラブ文化を知らなかった人がクラブに行き出すようなエネルギーがあるんですよ。
続刊、ちゃんと出てほしいなぁ。

http://hi-bana.com/works008.html
試し読みできるから。ぜひ1話だけでも読んでみてほしい。

『アフターアワーズ』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
夜のたのしみはまだまだこれから。東京と、音楽と、女の子の景色。

夢さえつきぬけて、君を探している。/映画 『君の名は。』感想

君の名は映画1

新海誠監督の最新作「君の名は。」の感想記事です。
見終わったあと、しばらく立ち上がれず、エンディング曲の残響が耳から離れないままでした。
間違いなく、傑作だと思う。いやもう、毎回言ってるけど、今回も傑作。
過去最大規模で全国公開された本作はこれまでのキャリアの総括のような内容。
過去作の様々な要素が結集された、これまでのファンもここからのファンも満足のいくであろうエンタメ作品として仕上がっていました。
後述しますが過去作を観ている人にこそ観てほしい作品。



今作に挑戦的なエッセンスがいくつも含まれていることは公開前から
この素晴らしい予告ムービーからして、読み取ることができましたが、
それにしたって、ここまで真っ直ぐに大衆の方を向いた、それでいて新海監督らしさがあふれる映画に仕上がっていようとは。
新機軸のコメディ要素も、切り裂かれそうなセンチメンタルも、惑わされそうな透明な空も、こんなに幸せな映画があるのか、(大げさにいうと)自分のための作品だと感じられる映画があるのかと思ってしまうような。

ざっくりと感想かいていきます。ネタバレを含みます。ご注意ください。

過去作の感想記事
『秒速5センチメートル』感想。
最高級の、雨ふる楽園の物語。『言の葉の庭』感想
秒速の記事とか15歳のときにかいたやつだしもう読み返せないけど。



楽曲との融合性


まず音楽のことを書きたい。本作においては本当に大切な要素。
過去作「秒速5センチメートル」に代表される、音楽と映像の融合は新海監督作品の持ち味。
今作ではRADWIMPSとコラボをしており、ボーカル曲から劇伴まで彼らが手がけています。
RAD・・・RADはなぁ・・・これまでもう・・・イヤホンで野田洋次郎の声をとろけるまで耳に詰め込んだ高校生活を送ってたやつらからしたらなぁ・・・新海誠×RADWIMPSなんて、MAD動画みたいな夢タッグが現実になったことだけでもう絶頂モノなんですよ。
しかもボーカル曲が4つも映画で流れる。しかもしかも、全部超クオリティ。



タイトルトラック的ポジションの「前前前世」。ガンッと自転車を蹴りだすような疾走感と、甘酸っぱく宇宙を感じさせる歌詞・・・完全に新たなる代表曲の誕生だよ・・・。
アニメとリンクする、しかし独立した楽曲としても聞ける歌詞も素晴らしい。
壮大な世界観で、内容はあくまでも「君」と「僕」だけの物語。やや閉塞的で依存的で、しかし切実なそのRADWIMPSの歌詞の有り様は、考えてみれば新海誠監督の描く宇宙と密接に寄り添えるものだった。

前前前世だけではない。映画のオープニングを飾る「夢灯籠」もやばい。
夢から覚めたばかりのような、いや、夢に落ちていく時のような、夢と現実の境界が曖昧になるような浮遊感と迫力のある一曲。
「ああ このまま僕たちの声が 世界の端っこまで消えることなく 届いたりしたらいいのにな」
と歌い上げるボーカルとたゆたうようなクリーンなギターで幕が上がる。それは幻想的な映像と完全にシンクロし、スクリーンに吸い込まれそうな最高なオープニングを演出する。

「スパークル」は非常に重要なシーンでかかる、本作の核となるような楽曲。
ボーカルの息遣いまでわかるような劇場の音響で、その最初に一節が歌いだされた時。
泣くつもりなかったのに思わず敗北した。負けだよ。完全敗北。俺は、野田洋次郎に、新海誠に命のすべて握られた。俺は生まれ変わった俺になったんだよ。

エンディング曲「なんでもないや」は多くは語らない。
ぜひ、スタッフロールで呆然としながら聞いてほしい。

ただオープニング「夢灯籠」で歌われた「君の名を 今追いかけるよ」というフレーズがある。それと対応するかのようにエンディング曲「なんでもないや」では、「君の心が 君を追い越したんだよ」というフレーズが歌われる。こういった美しいリンクが、個々の曲を聞いていても映画の世界に再度連れて行ってくれる。
様々な感情が胸の中であふれつつも、「なんでもないや」ってちょっと誤魔化しながら
あんなにも大変だった出来事が、時が経ちいつしか記憶はおぼろげに、日常の中のちょっとした空想劇のひとつとして片付けられる。わけもわからない感情を押し殺し「君」に語りかける。空想劇の中でつながった、たしかな愛おしさを抱きながら。

そのぶっ飛んだ歌詞でたびたびネタにされる事もあるRAD。
けれど思い出した。そして確信する。孤独な、そして誰かを強烈に欲求する寂しい心に、RADWIMPSは救いをくれる。そういう音楽をやっていてくれてたんだ。

観終えたあとようやく席を立ったあと、そのまま物販でこれらの楽曲が収められたミニアルバム「君の名は。」を購入。サントラも兼ねている本作。映画を見た方なら、きっと欲しくなるはず。

君の名は。(通常盤)君の名は。(通常盤)
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コミカルなキャラクター


本作のコメディタッチな序盤の流れなんかは、過去の監督作品になかった新機軸の要素。
しかしこれが本作を立派な「エンタメ作品」たらしめる大切な要素だった。
流れとしては劇場作品もだがCMアニメ「クロスロード」を汲んでいるように思う。


いやー久しぶりに見るとクロスロードも最高だな。

「君の名は。」これまで新海作品よりオープニングから中盤のつかみがよく、モノローグですべてを語ろうともしない。些細なやりとりであってもメインとなるキャラクター同士の関係性なそこに流れる気持ちが汲み取れる。
ポエムではなく、キャラクターのセリフに、視線に、強度がある。

主人公。
瀧は東京に通う男子高校生。三葉は田舎(岐阜!!!!!!)の女子高生。
ある時から互いの心が入れ替わり、まったく別の世界を体験していくことになる。戸惑いながらも時に楽しみ、入れ替わってしまった互いの人生に興味を持ち、そして通じ合う部分も出てくる・・・
という非常に!非常にベタな男女入れ替わりネタを新海誠監督が持ってくるとは!!という驚きはありますがこれが面白い。ベタなのはみんなやっぱり好きだからなんじゃないか。

三葉が素直に東京生活を楽しみまくっていることに対し、
瀧は田舎の風習や古来からの言い伝えに非常におおくのことを学び、己に響かせていく。
ストーリー中盤からは取り憑かれたように三葉の地元である糸守町のスケッチをしていくことになる。その姿はちょっと前作「言の葉の庭」と重なる部分も感じる。
キャラデザの田中将賀さんも言及していましたが、瀧くんはかつてないほどに強い少年だったと思います。

互いの人生をのっとって痛快な行動を起こしていくので観る側としては楽しみ
その周囲の人物にとっては突如豹変する彼らの姿を異様に感じられていて良い。
個人的に好きなのは四葉とテッシー。
テッシーが父親に怒鳴られたあと、「ホントかなわんなぁ・・・」と言いながら宮水神社のほうを眺めるシーンは最高の田舎エモって感じでよかったですね。

声優の、とくに主役ふたりの演技も素晴らしい。
少年の声で少女がしゃべる、そしてその逆もしかり。そんなややこしいことをやってのける。ギャグはもちろんシリアスパートも、常にスレスレのバランス感覚で演技がされる。
ともすれば全編ギャグみたいになってしまいそうだもんな、この設定。
それをここまで磨き上げられた急転直下の長編アニメとして成立させているのは
映像や音楽、シナリオの良さだけではない。それに命を吹き込む、声の仕事があってこそ。

ところで自分は岐阜出身岐阜在住で。
この映画には岐阜県飛騨地方が大々的に登場して、方言も聞き馴染みあるもので、そういう意味でもとても楽しかった・・・!
微妙に見覚えのあるJR岐阜駅のホームや、あのしょぼい線路風景や・・・。
地上初の美濃太田アニメなんじゃない?あっのうりんあった。

滑り落ちていく壮大なストーリー


コミカルなキャラクターたちによる序盤から一転、後半はまさに新海誠ワールド全開。
内省的なモノローグ。希求する孤独な心。埋まることない空白。越えがたい距離。突如の喪失。
自分の世界に没頭し、そしてはるか彼方の君に向けて言葉を紡ぐ。

おそらく男女入れ替わりボーイミーツガールという前知識の上で見た人が多いだろうから、途中からの彗星落下という大災害、生命の危機、時空の歪みといった、ハリウッドSF映画みたいな要素も出てくるとは予想できていなかったはず。
序盤の賑やかさ。中盤の鼓動が早まる感じ。クライマックスの静寂。このメリハリついた緩急が、エンタメ作品としても成功させつつ、新海誠ワールドを存分に味わえる贅沢な構成となっている。

しかもタイムスリップもの大事な要素として、いかに伏線をまくか、そして回収するか。
ここに至っても本作はとても楽しませてくれる。
特に結びを象徴する組紐が、そもそも物語が始まる前から瀧の手にあり、
それが最後に三葉に渡るあたりはゾクゾクされられましたね・・・。

神社のご神体そばの幽世で、口噛酒を口にすることで再会を果たす場面は
「こまけぇこたぁいいんだよ」の精神がにじみ出て、しかもその後の圧倒的に美しく儚いシーンでその感慨も吹き飛ばされる、特に好きなシーン。

パンフレットで新海誠監督のインタビューが掲載されており、それによると
本作は意図的にストーリー色を強めて、観る人にクリエイターとしての意図を確実に伝えられるよう長い時間をかけて調整をした、という。
それだけの苦労のとおり、本作はこれまでになかった緻密さとスケールで展開されていく。
4次元的な大きな物語と、世界のすみっこのちいさなボーイミーツガールとしての側面が共存する。
金曜ロードショーで流れても全然OKなだけの一般的強度を持った作品を作成したことは、なんか嬉しいやら寂しいやらなんだけれど、この作品を観るとやっぱり俺はこの監督が大好きだと思う。

過去作との関係性


ユキちゃん先生ー!!!!!!!!!!!

ハァ・・・ハァ・・・こんなところで会えるだなんて・・・。
「言の葉の庭」のヒロインである雪乃先生が、糸守で教鞭をとっていました。
こんなにストレートに過去作品とキャラが登場するとは思ってなかった。
今作も万葉集がキーとなってくるため納得の人選ではありますが。

時間軸がどうなっているのか。
言の葉の庭の物語の前なのか後なのかはわかりませんがそれでも
あの美しい声を聞けたことがしびれるほどに嬉しいですね。
そういえば言の葉の庭とリンクしている部分で、新宿御苑も出てましたね。

多くの人が言及するように、これまでの監督作品のボーイミーツガール(?)には、
「距離」というものが非常に重要な要素としてフィーチャーされていた。

「ほしのこえ」は地球と宇宙に2人は引き裂かれた。流れる時間の流れの違いもあった。
「雲のむこう、約束の場所」では消えゆく記憶に翻弄された。夢の中で君の孤独の音がした。
「秒速5センチメートル」は物理的な距離より心の距離。願うこと、ただそれだけの尊さ。
「星を追う子ども」はそもそも別の世界から少年はやってきた。サブテーマは死者との再会。
「言の葉の庭」は子供と大人の、歳の差の距離。そして自分の世界への没頭。
「クロスロード」は、都会と田舎から巡りあう、出会う前までのボーイミーツガール。


そして結論からいうと過去作のこれら要素を「君の名は。」は全部やってのけた。
全部も全部。欲張りにも特盛り状態である。過去作のセルフオマージュを盛り込み、それだけでなくこれまでの世界から一歩抜け出ていく。
だからこそこれまでの新海ファンはもうお腹いっぱいなのだ。
冒頭にも書きましたがこれまでの総決算的なものに仕上がっているのです。

そして「秒速5センチメートル」という、おそらく新海誠作品で1番話題性のあった映画を見た人は、この映画のラストシーンで成仏できるかもしれない。
監督は「秒速」をバッドエンドの物語として解釈されたくはないようだけれど
「じゃあこれでどうだ」と言わんばかりにもう一度、あのシーンを再演した。

もちろん作品が違うし過程も違う。それは当然わかっている。
けれど、秒速の物語でチリヂリになった僕ら全部の無念を、
この映画は晴らそうとしてくれているのかもしれない。
雪がふる都会の夜景が映されたときにハッとしたけれど、すれ違う男女で確信する。
秒速が公開されて9年半。長い時を経て、かすかに魂が癒やされた。
「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか」
・・・君には会えないけれどだいたい10年で僕は救われたよ・・・
ちょっとくらいは。

キービジュアルの構図をこう使うか、という部分もにやりとさせられる。
ともかく過去作を見ている人にも強烈におすすめしたい一作なのです。

夢の先のリアル


夢って目覚めるとゆっくりと消えていく。今作のモチーフのひとつ。
「あれ、なにを見ていたんだっけ」とおぼろげになり、大切なものが手のひらからこぼれ落ちるように、自分から世界から、なにかが消えていく。
雲の向こうでも描かれた夢のモチーフを再度使用し長編とした本作。
序盤のコミカルな展開から終盤、「夢となって消えたあと世界」の中で
その真価を発揮していました。
これはもうロジックの話でもテクニックの話でもなく、ロマンの話です。

なにがあったかは覚えてない。何かがあったことさえ、忘れている。
けれどどうしようもなく、途方も無く強く、魂が求めてしまう存在。
理由もなく、いつもだれかを探している。
いつもなにかをだれかを探しながら生きている。

それは恋物語だけではなく思春期の、いやもしかしたら誰しもが抱えている、ある種の潜在意識なのではないかなと思う。
なんとなく、欠けている感覚。例えばもっといい生き方を探す事。もっと自分にあった居場所はないかと、自分にはなにができるのかと、探し求めている。
瀧と三葉の場合には、それは互いの事だった。

口噛み酒は自分の半身なのだ。口にしたことで、魂は結ばれた。
手繰り寄せられた運命。渡された組紐。これは、時をも超える赤い糸の物語だった。
もはや互いに何があったのか、思い出せないに違いない。
けれどもはや本能か、神様の仕組んだ必然か、直感で互いを見つける。
併走する電車で目があった一目惚れのような一瞬、
消えたはずの思い出から、消えたはずの想いだけが、溢れ出る。

誰かを強く求めていた。そんな感覚だけに突き動かされた、8年後の東京で
新海誠映画、過去最高のハッピーエンドが待ち受けていた。

運命というものは、もしかしたら記憶から消えたもうひとつの物語で作られた、
もうひとつの人生の残滓がただよっているようなものなのかもしれない。
そんな空想をしてしまう、幸せな映画。

挿入歌、「スパークル」の歌詞が、映画のすべてを包むような素晴らしい内容なので、一部引用する。

運命だとか未来とかって 言葉がどれだけ手を伸ばそうとも届かない場所で 僕ら恋をする。





昨日見てきたばかりのテンションでざーっと書いてみました。
非常に贅沢なアニメーション映画でした。
新海監督のこだわりと挑戦を濃密に感じられる107分間。
いまさら背景の美しさをあえて言うのも馬鹿らしいけれど、でも言わざるを得ない。劇場のスクリーンで夜空いっぱいの彗星が流れていく、あの美しさを見たら。
きらめく木漏れ日の光。都会の喧騒と静寂の対比。
日常のなにげない風景を、現実以上の輝きでみせること。この魔法にかかったら劇場から出てきたその時からもう頭からあの輝きが離れない。
それでいて、これまで以上に音楽との融合性を高めている。RADWIMPS最高でしょ、みんな。
そしてガラス細工のような、繊細な言葉選び。情緒あふれるモノローグもまた心射抜かれる。

音楽と映像の両面から、そしてシナリオのあまいロマンチシズムから
全身で幸せを感じられるアニメ映画でした。
心のやわらかい10代には純粋な衝撃を、カサついた人生ベテラン選手たちにも、心にうるおいを与えてくれること間違いない。
めぐる運命の美しさを、世界にかがやきが灯る一瞬を、見に行こう。




俺は映画を見る前に小説版を読みました。内容は映画そのものです。
ただ互いが互いを補完しあう関係となっているので、小説版もオススメ。

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轟音で鳴いた心の嗚咽のおはなし『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』

だらだら長文。
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永田カビ

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   そうか、私はもう”知っている”側の人間なのか

寂しいとき、抱きしめてもらいたいとき、そう素直に言葉にできるって本当に強いなって思う。
同時に、この作品を読むとノンフィクションというのが究極の恐怖を伴うシロモノだということを再認識させられる。
よくこんなに赤裸々に、自分をさらけ出せるな。本当にすごい。
タイトルがすべてを完結にまとめきっている「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」は、永田カビさんがもとはpixivにアップした実体験レポ漫画で、それを色々と膨らませつつ単行本化したものです。



元となったシリーズはまだネット上に残っているから、少しでも興味を持ったらまずこっちを。
・・・というかもう有名すぎていまさらレビューかくのもアレなんですが。まぁ書きたくなったので。

「レズ風俗ってどんな世界なの?」という疑問を抱かせるキャッチーなパワーワードを装備した本作ですが
性的な内容にワクワクできる作品かと問われればどう考えても圧倒的に「NO」。
あじけなく軽めなタイトルではあるものの・・・
内容はもうドロッドロの、自意識&現実社会との全面対決。しかもズタボロになってる。
「息が詰まる」という慣用句そのままの事態に読者を叩き落とす、かなり瘴気の濃い一冊。

読んでてヘトヘトになりますよ、こんなん。だって行き場がないって、居場所がないって、もう死んでしまいたいって本気に願った作者が、そのままの感情をこちらにぶつけてくるんだ。
作者は表紙ではベッドで緊張した顔してるけどまさかまさか。なんの服も着けないままこっちにナイフ持って突っ込んできてるんですよ。殺すつもりでかかってきてる。でもこの作品を読んでいると、避けたくない。そのナイフが持つドラマが、あまりに克明で絶望的でリアルだから。
この本に描かれているドス黒い感情や、凍えそうな自己嫌悪の闇に、覚えがあるからだ。

かと言って「わかるわかる」「あるよねーそういうときって」みたいな、軽くすべてを受け止めきれるはずもない。
本当に、真剣に、ひとりの人間がもがき苦しんで、どうにもならなくなって死のうって考えるときにそんな神様みたいな面していられるかって。俺は何度となくこの本を読むの辞めたくなったよつらすぎるわ。
でも、やっぱり、愛おしい本なんだ。

この作品をめぐるテーマっていくつか根深いものがあって
例えば親との関係性だとか、性への自制心とかコンプレックスだとか、自傷行為についてだとか、自意識の見つめ方だとか、もう一個一個取り上げて個別エントリ書けそうなくらいミッチリ詰まっているんですけれども!
とりあえず個人的にオゲェとなったシーンとか要素をピックアップしていく。



居場所を求めて彷徨う


開始そうそう、めちゃくちゃヘビィな話題から始まる本作。
「何があっても私を認めてくれる場所」を探して彷徨って、けれどうまくいかない。
裏切ってしまって、罪悪感で顔を合わせづらくなって、どんどん居心地が悪くなる。居場所がなくなる。
義務教育という場は本当に大切で、それは義務という強制力でもって嫌でも学校なりコミュニティに所属してなきゃいけなくなる。それが窮屈でもあるし、退屈でもあるし、安心でもあったんだよなあ。「ここにいれば正解」という気持ちでいられるのって大切なんだ。

そうして著者は拒食・過食と体のバランスも崩壊し、とうぜんメンタルもやられて自傷を繰り返す。
とにかく追いつめられていく。そしてその原因はなんだろうかと自分で分析していく形で進行していく。
この、自分を分析する視線の鋭さが本作の1番のミソというか、読み応えのある部分かと思う。

レズ風俗11

特に自傷癖の体験談として、「心の傷はどうして・なにが辛くて心が悲鳴を上げてるかわからなくて混乱する」「体を傷つけた痛みは因果関係がはっきりしていてわかりやすい、安心する」という証言をしていたり、そうしてボロボロになっていくことで、「何かが免除される気がする」「居場所をもらえる」という、自分への甘い蜜を求めての行為だと、もうめちゃくちゃ赤裸々に語られている。
追い詰めているのは自分だったんだと。依存している対象はなんなのかと。
悶え苦しむ日常のなか、慎重に自分を見つめていく著者だからこそ、そして当時を振り返る回想録だからこそ、
適度な距離感から、適切な言葉と解説で、苦しんでいる人間の心の中や精神構造が見えてくる。

正直なところ完璧に理解できる世界ではないんだけれど。やっぱり誰しも一度は、精神のバランスが揺らぐ瞬間はある。自分で自分が見えなくなるような日あってあるに違いない。

自分が14歳だったとしたら、
ゲームの話ができる友人より、いろいろ教えてくれるインターネットより、優しく厳しい母より、
この本に書かれている真実の言葉たちのほうがずっとずっと親身でいてくれたかもしれない。

それだけ、この本に書かれている「傷」はリアルだ。その傷からは血が流れ出て、生きている言葉なんだと教えてくれる。
とくに「傷つけばそれだけなにか免除される、優しくしてもらえるはず」という思惑は、ヘタすると今なお自分の中に根付いている感覚で、スバリ言い当てられて息が止まりそうになった。やめてくれ。

追いつめられるときって、自分に厳しすぎるからなってしまう事もあるんだなぁという発見もあった。
自分に科す罰についてもそう。ストイックすぎて、真面目過ぎて、追いつめられていく。そういうのもあるんだなぁ。



「母性」とは


バブみとは一世を風靡したこのワードだがまぁそれに近く、これにまつわる「母性を求める本能めいた感情」についても解説をくれる。
というか、自分にもわかる。やっと言語化できたよ、そうだよ、安心したいんだ。

レズ風俗14

恥ずかしながら女性が「母性を求める側」からの意見をこの本で初めてくらいかに読むことができてすごく新鮮だった。男女共通だったのかよ(かなり酷い素直な意見)
ただ、自分を無条件で愛してくれる大いなる概念にやさしく抱かれたい、という言葉にすれば子供っぽすぎる内容が
もう涙がでるくらい「わかる・・・抱きしめられたい・・・やさしく許容されたい・・・」という共感に直結する。

著者は母親に対して憎しみめいた感情もあるようだが、しかしそれとは別にかなりベッタリと母親に甘える生活をしていた様子。
「親のごきげんをとりたい」という、自分の心の外側にある承認欲求に振り回されることで心身にバランスを崩したんだけど、それを自分で解析するというのは本当に勇気がいることだろうと思うし、改めて本作のフルオープン全裸っぷりに恐々とする。

この本を読んで「母親が悪い」という言葉をネット上でちらほら見かけたんだけど、本作はむしろそうやって原因を己ではなく母親に押し付けるような内容とはなっておらず、むしろ自分を戒めているわけで、その上で「母親がだめ」「家庭環境がだめ」というのもどうなんかなぁ。だって母ちゃんだもん。絶対の存在になり得てしまうよ。
現在の母親との依存関係性を断ち切る!という目的からレズ風俗へいき、また本編のラストシーンにもなっているわけで、「母への依存」「性欲の罪悪感」、非常に考えさせられるテーマも含んだ作品だというのがよく分かる。



漫画家を目指して


「マンガ、がんばれよ!」
の場面では俺まで泣けた。これがすべてといってもいい。

レズ風俗12

この著者さんはいろんな本を読み漁っていて、「この記事のこの文章に衝撃をうけた」「この企画の内容で泣いた」というような読書体験から自分を見つめなおし、そして分析し克服へと向かっていく。読書好きとしては万歳三唱レベルの共感ですばらしい読書体験をしている。共感というかもはや羨ましすぎる。同時に著者さんの知識欲の貪欲さも惚れぼれする。
そして生み出されたこの「レズ風俗レポ」だって、きっと悩める人の手に届いて、素晴らしい読書体験を与えていると思う。バイブス、感じるね。

その豊富な読書量もあってか、非常に噛み砕いた丁寧な自己解析の巧みさに納得する。とにかく、わかりやすい。
そしてこの作品内で語られている全ては、いま実際にこの本が出版されている事実によって、ハッピーエンドに補強されている。
さらに言えばこの本はかなり話題も集めてるし多分今年の各漫画賞でもいいカンジなカンジだと思う(適当)
ノンフィクションはこういうのが卑怯でもあり最高に面白い。すべてこの世の出来事である。

それと余談として。
心身ズタボロになりながらのたうち回って病院かよって紡ぎだした著者の別名義の作品が気になって、収録されてる本を買った。

Awesome Fellows! Perfect (ビームコミックス)Awesome Fellows! Perfect (ビームコミックス)
入江 亜季 紗久楽 さわ 犬童 千絵 福島 聡 佐々 大河

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徳永11

ハルタだった。Fellows時代は購読してたんだけど・・・というか、エッセイとはかなりタッチが違うので一瞬わからない。
内容は美少年のアンドロイドと、それを生み出した冴えない発明家のショート・コメディ。
濃厚なタッチで描かれるも、ゆるくて暖かなやりとりが楽しい一作です。
穿った見方をすれば一種の特殊な親子ものという側面もある。ゲスかもしれないけれど、レポ漫画を読んで背景を理解してからだと、なにか違う味わいが出てくる。
それと本来の作風がこうだとわかると「レズ風俗レポ」がある程度戦略的に描かれることもわかる。
主人公である自分をずっと見せるレポなわけだからある程度かわいらしく、内容が重いからデフォルメも強めてキャラクター劇っぽく仕上げる。ちょっとは本作中で語られている部分もあるけれど、興味ある方はこちらも読んでみては。

あ、この本はベテランから新人さんまで非常に個性の強い短編がおさめられたアンソロジー短編集。普通におすすめです。
進美知子さんという作家さん、普通に天才だった。



「レズ風俗レポ漫画」として。


レズ漫画レポの前提となる著者の語りがあまりにヘビィすぎてタイトルを忘れそうになるが、レズ風俗レポ漫画です。
知られざるその世界を覗ける性風俗レポ。しかもレズ風俗。そういう部分でもかなり楽しい。

しかし著者も語っているように、色っぽいものではない。幼い少女がじゃれるような印象を受ける。客によっていろいろ内容も変わるだろうけれど、本作を読んだだけの印象だと、いやらしいことなんて全く無い、やさしい場所のように思えます。まぁやるこたやってるんですけど。

高度な対人コミュニケーションとしてのSEXの難しさがこれでもかと描かれるので、読んでると、こう、心がムズムズしますよね・・・興奮するとかではなく、色んな意味で痛みがあって・・・
あんなに「抱きしめられたい」って心で叫んでいたのに、本当に抱きしめられた身動きが取れなくて、抱きしめ返すこともできず。申し訳なさのあまり早く終わってくれと願って、悲しくて泣いちゃうとかね。なんなのこれは。
著者が心を開いていないということをわかったうえで励ましの言葉をくれるお姉さん、天使かよ・・・。
・・・という、エロ目的で買った人々が「はー、憂鬱な内容乗り越えてようやく本題だ!」とワクワクしたのをさらにふるい落とす商売っけゼロの淡泊セックス!!しかしそれゆえにこの著者らしさが出る。この無念さがこみ上げて逃げ出したくなる記憶こそ、逆にずっと胸に刺さるのかもしれない。

ところでこの作品は4コマ漫画形式で1ページにきっちり4つのコマが敷かれているんですが
時たまその形式を崩して拡大コマが来る。よくある手法ですが、とくにこういった閉鎖的な自分語りが行われる作品だと、より世界が拡大された、空がひらけたような、気持ちのいい特別な演出になっていいですね。ワザアリな部分です。

レズ風俗13



つらつらと書いてきましたが、まだまだ語りたりたりなくて。けれど一区切りつけます。
タイトルからして人を選びそうですが、とんでもない。幅広い世代に読まれるべき傑作レポ漫画だと思います。
近所の書店だと堂々と少女漫画コーナーに置かれてました。ありだと思います。思春期女子にも必要な本じゃないかなと思います。
永田カビさんの体験が遠かろうと近かろうと、強烈な印象を残すことは間違いない一冊。
14歳のハローワークとかと同じくらい、学校図書館にあってもいい本なんじゃないかなというのは言いすぎか。
最後に「親不孝が怖くて自分の人生が生きられるか!」という言葉が出てきたことがなによりも嬉しくなる。
世知辛いこの日常を生き抜くためのヒントみたいなものがいくつもいくつも散りばめられた、最高の作品だなぁ。
メンがヘルな人にも、なにそれって人にも、本当に読んでみてほしい。気味が悪いとか怖いとか思うかもしれないけど見てほしい。自分との対話をこんなに心血注いで作品に仕上げたもの、なかなか読めないはず。
こんなのを読んでしまったらもう、応援したくなるに決まっている。永田カビ先生。

『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 ・・・・・・・・・★★★★★
書籍化大成功。web版よりさらに濃密に、さらに丁寧な物語になっている。タイトル詐欺ではあるもののそれでもいい。逆にタイトルに引かずに読んでみてほしい一冊。

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楽園に花束を

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漣

Author:漣
「さざなみ」と読みます。
漫画が好きなので更新はほとんど漫画のこと。
好きなのは思春期とかラブコメとか。

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