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正直どうでもいい

こんな名前ですが好きな漫画の感想をかくブログです

2017年上半期 面白かった新作コミックス12作

あっさりと2017年が折り返してしまったぞ。どうなっているんだ。
ということであまり更新もできぬままこのザマですが、せっかくなので上半期のまとめ的な記事でも。

「新作コミックス」というのは、今回の括りで言うと、第1巻だったり単巻モノだったりを指します。
なぜ12作かと言うと、10作のつもりでガーッと書き始めて、あとで数えてみたら12個分だった・・・

ということで。順番はあまり関係ないです。  ↓↓↓




狭い世界のアイデンティティー(1) (モーニングコミックス)狭い世界のアイデンティティー(1) (モーニングコミックス)
押切蓮介

講談社 2017-04-21
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狭い世界のアイデンティティー/押切蓮介

押切蓮介先生は本当に多彩で多作だ。
新作である「狭い世界のアイデンティティー」はズバリ漫画家マンガである。
しかも思いっきり歪ませた、おふざけ全開の、血で血を洗う漫画家バトルロワイヤルだ・・・!!

兎にも角にも勢いが素晴らしい。第一話の冒頭からぶっちぎってカッコいいので読んでいない方はぜひこちらからでもどうぞ
http://morning.moae.jp/lineup/681
このヤケクソテンション!胸焼けしそうな殺気!一度漫画家が寄り集まれば、そこは修羅の巷!!
幾多もの天才たちが蠢く漫画界、そこに誰ひとりとして凡人は存在しない!!己のプライド、欲望、承認欲求、漫画愛・・・さまざまな感情が交錯しハチバチと爆ぜる!!

主人公は、兄を出版社に殺され復讐に燃える少女。
生半可な覚悟では生き残れない過酷なマンガ業界。そこに彼女は挑んでいくのだ。己の漫画が・・・2割くらい・・・!!のこりは大体暴力で解決し、のし上がっていく!!!ライバルたちを蹴散らしその頂上への駆け上るのだ!!

破茶目茶なギャグテイストが濃厚な本作ですが、過剰に描写した中にも漫画家の本音のようなものも潜んでいる気がして(出版社の忘年会で渦巻く欲望だとか・・・)なかなか笑っているだけで終わらせるのももったいない。耳を済ませて、この下らない騒音の中に潜んだ本当の声を探してみたくなる。すごく繊細で、ギャグっぽく照れ隠しした何かが、熱いものが、たしかにこの漫画にはある。
それはきっとこんな漫画を手にとるような、漫画が好きな人にこそ分かる気がする。




明日ちゃんのセーラー服 1 (ヤングジャンプコミックス)明日ちゃんのセーラー服 1 (ヤングジャンプコミックス)


集英社 2017-04-19
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明日ちゃんのセーラー服。/博

表紙の”圧”やばくないですか!?もうなんにも知らなくてもレジ直行、表紙買いセンサーとかまったく無意味の圧倒的な暴力性。かわいい女の子の本を買いたい。ソレだけなんだよ!
と思ったら中身もすごいんです。「明日ちゃんのセーラー服。」はかわいい顔してかなり尖った漫画ですよ!

作者「博」先生と言えば「アクアリウム」から素晴らしく美麗かつ多彩な少女絵描きさんという印象でしたが、本作はさらに特性を爆発されたような感じ。
ストーリーはシンプルで、田舎の名門中学にあたらしく入学した主人公、明日小路ちゃんの学校生活を描いた、おだやかな日常者。目標は、友達をたくさんつくりたい。みんなと仲良くなりたい。なんて等身大の願いだろうか・・・優しい気持ちになれる・・・。

個人的にも大好きなんですが、フェチ写真家の青山裕企さん写真集のような
「ここの動作に、この一瞬に目をつけるか!」と言ったような驚きと輝きがちりばめられていて、自分の中に新しい視点が生み出されていく。
ただ髪を結ぶだけのシーンをじっくり描いてみせたり、極端な例を上げると、アイドルを夢見る小路ちゃんが妄想の中でアクロバティックなキメシーンを炸裂させるその妄想の中身を、1ページまるまる使った大ゴマを14ページも連続させて描写したり。
つまりフェチ描写を優先させるがあまりコマ割も放棄して、イラスト集はたまたパラパラ漫画のような構成になる瞬間が度々ある。この情熱のほとばしる感じ、たまらない。
ここらへんはWEB掲載漫画ということも影響しているのだろうけれど、なんというか非常に21世紀的な、『ディスプレイで読む漫画』としての特性を備えているように感じます。
それなのに、個人的には紙のコミックスで読むことがとてもうれしい。
あどけない少女たちが一瞬、ほんの僅かみせるゾクリと背筋が震えるような”魔力”を、みごとに神とインクで閉じ込められている魅惑のコミックスなのですよ。まさに、宿っている、のだ。

それの最たるものがこの表紙。冒頭に戻りますが、”圧”やばくないですか。
物語の面白さというより創作物として独特の存在感を放つ一作。
ツイッターで絵師さんが投下するモノクロ1枚絵の少女絵をとかをお気に入りに放り込んでいるようなムッツリスケベに是非読んでほしい。





不滅のあなたへ(1) (週刊少年マガジンコミックス)不滅のあなたへ(1) (週刊少年マガジンコミックス)
大今良時

講談社 2017-01-17
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不滅のあなたへ/大今良時

「聲の形」という傑作を送り出した作者の新連載。
期待の大きかったであろう中で繰り出してきたのは、けっこう予想外だった。SFでもあるが、冒険ファンタジーと読んでもいいのだろうか。それにしたって哲学的だ。けれど王道のようにも感じる。個人的にはなんだか少し、漫画版のナウシカのような雰囲気にも感じます。
もしくは雰囲気で言うと、半世紀くらい昔の、外国の冒険小説みたいな。

後に不死<フシ>と呼ばれる生命を、神は世界へと産み落とした。
それは死者の肉体を借りながら次々に形を変え、世界を彷徨っていく。
おぼろげな思考。おぼろげな本能。様々な出会いを経て、フシは変化をしていく。

まとめてみるとシンプルなんだけど大今先生の独特のテンポや描写力によってグッと深みを増した、とにかくメッセージ性の強い作品に感じます。
生命における死だとか、理不尽な掟、絶望的な暴力・・・
世の中のいろいろな”抗いがたいもの”に対する強い怒り。そして反抗心。
肉弾戦という括りだけではなくメンタル的な部分も含め、広義な「戦い」が展開されていく。読んでいると本当に心が突き動かされる。今年になって漫画を読んで泣いた経験は、たぶんこの作品だけだったかもしれない。
誰かが残したメッセージをフシは受けとり、そのつもりは無くても誰かに繋いていく。フシは主人公として、メッセンジャーの役割を担っているのですね。
ストーリーの緩急の付け方もお見事。個人的には、数巻溜まってから一気読みすると面白さ倍増パターンの漫画かなとも思います。




おじさんとみーこ 上 (ZERO-SUMコミックス)おじさんとみーこ 上 (ZERO-SUMコミックス)
朝日 悠

一迅社 2017-05-25
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おじさんとみーこ/朝日 悠

やさぐれ金髪おじさんが、初心なJCを手篭めにするお話。
それはもう語弊もなんでもなくストレートにそういう話で、生理的に付け付けないという人もいるだろうとは思う。が!!!そんなことは!!!どうでもいい!!!
いいか俺はちょっと背伸びした危険な恋にゾクゾクしてるJCを眺めていたいんだよ!!!

身寄りをなくした少女のもとへ、おじさんがやってくる。
互いに孤独を内に抱えた2人は共鳴するかのように、ぬくもりを、安らぎを求めていく。
少女漫画らしいほわほわと幼気なタッチから紡ぎ出される物語は、絵柄で緩和はされてはいるが、非常にアダルトでいやらしい世界観となっている。
だってもう、流し目でタバコ蒸す怖いおじさんと、いたいけな女の子が同居してですね、もうイチャイチャちゅっちゅしまくりなんですよ。そりゃヤルことヤってますし。思いの外遠慮なくエロいよ。
1巻ではゲスト的に部外者の男性が登場し、ズバリ2人の関係性を異常だと指摘する。しかし少女は静かに彼と決別を果たす。哀れんでくれる男性の手を取らず、より闇を深くしていく。ここらへんの演出は同人誌版とくらべても秀逸だった。

世界から疎外されているような、薄暗い空洞がどちらの胸にも存在して
まるでその深さを確かめ合うように、やはり抱きしめあってしまう。
切迫した2人の心理描写と、ドロッドロになるまで甘くなったイチャラブシーンの波状攻撃にすっかりやられてしまうのです。下巻のカラー口絵なんかもう泣けてしまうから・・・。

コミティアで通ってシリーズを買い集めてたんですが商業出版化。
前からちょくちょくある流れのやつですが、なんだかんだで嬉しい半面ちょっとさみしいヤツですよね。
しかし商業単行本として冷静にこの漫画を読むと、あまりにも強いコミティア臭にクラクラしてしまう。あの”におい”、我々の脳みそに直接感覚を呼び覚ましてくれる。




日々是平坦 1日々是平坦 1
迂闊

白泉社 2017-04-28
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日々是平坦/迂闊

あぁァーーーーーーこんな青春が欲しかった。それだけなんだよ。

迂闊先生が楽園本誌とWEB増刊で連載しているふたつのシリーズをパッケージした「日々是日常」の1巻。
収録の2シリーズが毛色が違っていて、同じ学校で同じ時間を共有しているはずなのに、“バカサイド”と”リア充サイド”では文字通りに見えている世界が違っていることが丸分かりになっている一冊なのです。
おバカたちは楽しくどうでもいいことで盛り上がっている一方で、
初めてのお付き合いに戸惑い赤面しあってしまうような初々カップルがいる。
けれどどちらかを選ぶこともできないような幸福さ。いわば両A面盤!
青春の美味しいところばかり食べてしまおう。レッツ・ハイスクール!(謎)

なんといっても『純粋男女交際』がね、ほんと、もうむり。
彼らの脈拍が、吐く息の湿り方が、ふとした瞬間に目を奪われる静寂が、全部生々しい。
真面目なばかりの2人だけと、周囲がイメージしているよりかは、ちょっとだけナイショが多かったりして。ちょっとだけ(きっと)走りすぎていたりして。
非常にプライベートな内容を、第三者目線のモノローグが気持ちのいい切り取り方をしてくれている。
体が温まった所でやってくる『日々是平坦』のバカバカしさで一気に喉越し良くなる感じ。意味わからんな。なんかグイッとツルッと行ける面白さなんですよ。
そんなこんなの一冊。よくあるようでなんだか特別。迂闊先生の描く女の子はみんな健康的で素晴らしい。



ルポルタージュ (1) (バーズコミックス)ルポルタージュ (1) (バーズコミックス)
売野機子

幻冬舎コミックス 2017-06-24
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ルポルタージュ/売野機子

2033年。恋愛する者がマイノリティとなった社会が舞台。
売野機子先生といえば詩的な恋愛漫画の名手ですが、最新作「ルポルタージュ」はまさに売野ワールドが全開になっている。
”飛ばし”結婚という現代的な結婚・・・恋愛感情を必要としないパートナシップのような共存生活を人々が選択している。
この社会においては、結婚相手とは『共同経営者』という考えなのだ。
現代の思想のその先を見せてくれる設定、有り得そうな近未来のビジョン。
そんな中でテロ事件を追う主人公が、とある男と出会ったことで
さらに深く事件へと巻き込まれていく。そして、恋をする。

もともと好きな作家さんではあったけれど、本作はとくに作家さんの独自色が色濃く出ているように感じますね。まさしく真骨頂と言える。
描かれている世界観も素晴らしい。恋愛は人生に必要不可欠だった時代はもうとうに終焉していて、人々は次の生き方を見つけている。そんな時代に、あえてムダな恋愛に落ちてしまう。もはや本能的に、直感的に、致命的に、誰かを好きになってしまう。その理不尽さに誰も抗えない。

「非・恋愛コミューン」というシステムも描き方も、刺さる所がありますね。
大恋愛の果てに結ばれても、離婚する夫婦ばっかりだ。
そんなのを見ていれば恋愛がおっくうにもなるし、もっとシンプルで「めんどくさい」という感情に支配されてしまう。
それならば最初から相手をしっかり見極めて、全て計算して調整して、安心で丈夫な『強い家庭』を作っていこう、と。まるで自衛策のようで。傷つきたくないという思いが強い、省エネ主義的な思想も、非常に現代的に感じますね。
続刊においてはどんどんとこの世界観の深掘りもされていくことでしょう。
それに、こんなに鮮やかに1巻を締めくくられては、2巻も買うしかない。
売野機子という才能の在り処がきちんと見つけられたような作品。

「自分は恋をしなくても生きていけると 思っていた頃があったんだってさ…」




おとなとこども、あなたとわたし。 (1) (it COMICS)おとなとこども、あなたとわたし。 (1) (it COMICS)
糸 なつみ

KADOKAWA 2017-01-19
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おとなとこども、あなたとわたし。/糸なつみ

「年の差」がテーマのオムニバス漫画。もうテーマから絵から内容から全部好き。コミックitというKADOKAWAの中でもちょっと異質な女性向け誌に掲載されており、コミクスが出るまで知らなかったのですが、読んでみたらもうドンピシャ。まぁコミックit自体がそもそも好みだったということもある。
1巻2巻が同時発売されたのですが、1巻だけ最初に買って、次の日にはすぐ2巻を買いに行ってましたね・・・。

3つのストーリーがありまして、1巻につき各1話ずつ、同時進行していく。
それぞれが違った角度から「年の差」を軸にしたドラマが展開され、それは切々とした恋のお話だったり、すでに亡くなった人物によって繋がれた疑似家族だったり、同じオフィスで務める女性同士の交流だったり・・・
読んでいると作者の年の差属性の強さを感じる。生半可なものではないのですよ。年の差によって隔たれた人生観。視線の違い。年をとる事で失ってしまったもの・・・。
生きてきた時間の違い。それは時に残酷なほどに人々の間を切り裂き、すべてを傷つけていってしまう。シビアな側面もかなりフィーチャーされていきます。
いわゆるオトナ女子向け、レディース漫画っぽい内容ではありますが
ソフトな絵のタッチと、作者のエモい完成によって幅広く受け入れられそうな作品ですね。
3つのストーリー、それぞれ甲乙つけがたいほどに味わい深く、「どれ派」かでも知り合いと話し合ってみたいくらい。いやぁ。年の差OLのオフィスドロドロ物語、イイヨネ。




怒りのロードショー怒りのロードショー
マクレーン

KADOKAWA 2017-01-30
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怒りのロードショー/マクレーン

映画好きの「語り」をメインに据えたような作品、いくつか浮かびますが、中でも個人的にはこれが好きかなぁという一作。
絵も内容も荒削りなんだけれど、ソレがゆえに我武者羅なエネルギーがビシバシ放たれている。
そもそもペンネームが「マクレーン」て。その時点で相当おバカな香りが漂ってきますね。

とっても下らない、しかし愛にあふれる映画好きたちの日々。
時に言い争いをしたり、時にいっしょの映画を見て震え立ちあるいは涙する!
ぶっちゃけ読んでてよくわからないネタも頻出する。映画好きなら拾えるものが多いと思うけれど、有名な筋肉映画をそんなに見れていない自分はクエスチョンマークもいっぱいだ。でも面白い!!例えば友達が必死なテンションでオタクトーク全開してたら話の意味はわからなくても面白いじゃない?そういう感じなんです。そして話をきいているとワクワクする。ムズムズしてくる。俺も、その映画、みたい・・・!!!

というか実は映画語りと同時進行的に「オタク」という人種の生き様も熱く描いてくれる。
理解もされず、むしろ違う方面のオタクから理不尽な争いを持ち込まれたり、なんなら同じ映画オタクの中でも娯楽主義or芸術主義といった火種がそこかしこに散りばめられる。
なんというかこの漫画は際どい。ブレーキ積んでいない車みたいに、楽しい気分のまま次には冷水ぶっかけられるようなスリリングな展開が待ち受ける。
けれど結局は、自分の大好きなことを誰かを共有できる歓びが、この作品の圧倒的な肯定感を裏付ける。
あと出てくる女の子がだいたいとても優しくておちんちんにくる。(お姉ちゃんはNG)




幸色のワンルーム(1) (ガンガンコミックスpixiv)幸色のワンルーム(1) (ガンガンコミックスpixiv)
はくり

スクウェア・エニックス 2017-02-22
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幸色のワンルーム/はくり

少年は大好きな大好きなだいすきな少女を誘拐した。そんな危ないオープニング。
欲望のままのその行動は結果、どん底にいた少女を救い出すことになった。
しょせん誘拐犯とその被害者というただそれだけの共存。
なのにそのワンルームに、不思議な温かさが宿ってゆく。

なんて危うい漫画なんだろう。
エンターティメントとしてこの漫画を飲み込むことができない人だって、きっと大勢いる。けれどこんなにも切実に、お互いの空白を埋めることだけを目的とした共存関係を。スレスレで恋愛に陥らないような、もはや手遅れないような、この不思議な絆を。じっと見守りたくなる人も大勢いるはずだ。
発売、即重版。自分もしばらく入手ができず、たまたま入った小さな本屋で初版を購入できましたが、非常に話題性のある作品であることは間違いない。

どうしようもなく寄り添うことでしかもう生きていけないことを、お互いに知ってしまったのに、「誘拐犯」「被害者」という関係性でしかお互いを赦すことができない。だからイビツな感情にふたりともが絡め取られていく。
あまりにも純粋な将来の誓いを、彼らは破滅のために結ぶ。
だからギリギリで心を許し合わないような、けれど自身が理解しきれていない本能レベルで互いに依存してしまっているような、あまりにも切実で子供じみた男女のストーリーに転がり込んでいくのです。いわゆるエモいってやつなんだよな。

ぶっちゃけ読んでスッキリする話なんかじゃなくて、ニヤニヤゴロゴロできるものでもなくて、描かれている人間の汚さとか世界の歪みとか理不尽な暴力とかに目を覆いたくもなる。でも素直に、幸せになってほしいなと、祈りたい。
商業連載ではあるけれど非常に『ネット』の世界のあの、というかこんな感じの、いろんな黒いものを感じる作品ですね。




たとえとどかぬ糸だとしても: 1 (百合姫コミックス)たとえとどかぬ糸だとしても: 1 (百合姫コミックス)
tMnR

一迅社 2017-05-18
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たとえとどかぬ糸だとしても/tMnR

大好きなtMnR先生の商業デビュー作。モチロン最高だった(条件反射)
同一作品ジャンルでたぶん人生で1番買い漁ったのが「ラブライブ!」同人で、好みのCPはあれどわりと無差別にシリアス系のを収集していましたが、そこから商業誌に進出してくれました。
そんなデビュー作ですが、もうあらすじの時点で勝利を確信ってもんですよ。

ごくごく平凡な高校生、
鳴瀬ウタには、人には言えない秘密があった。
それは、実の兄のお嫁さんである薫瑠に恋をしていること。
決して実らない恋だけど、日々の営みが嬉しくて、
その一方で兄との新婚生活を見ていると胸が張り裂けそうで…
彼女は心を押し殺す。
そっと心に秘めた恋心が、目を覚まさないように――。


やったぜ・・・。
というか1巻の内容、ほぼほぼこのあらすじに集約されてしまうんですが。

なんといっても可愛らしい絵のタッチと、ヒリヒリとしたモノローグのバランスが絶妙。痛くても痛くても、恋心を手放すことができない苦しみ。幸せなれるわけがないと自分を諭しておきながら、それでも堕ちていく悲しい矛盾。
主人公の少女の苦悩に身をよじりつつ、しかりながらその恋の相手である薫瑠さんの天真爛漫な魅力と、その包容力!
薫瑠にとって主人公は、夫の妹で、幼馴染で、守りたい家族で――
そんな風に”特別”に扱われるほどに、よけいに拗れていく片想い。
不憫な恋をする男女のことがだいすきなみんな~~~! ・・・ここが楽園だ・・・




初情事まであと1時間 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)初情事まであと1時間 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
ノッツ

KADOKAWA 2017-05-23
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初情事まであと1時間/ノッツ

大発明だ。そう言うほかない至高のコンセプトはずばりタイトルそのままだ。
例えばサッカーで歴代の名試合・名プレイを集めた番組があったとして、見てる誰しもが試合中のムービーを見ながら「このあとなんかあってゴールして得点が入るわけね」って分かりきっているわけじゃないですか。でも滅茶苦茶楽しい。綺麗に場面が繋がって、そして最高潮のシーンで結ばれる。結果が分かっていても、いや結果がわかっているからこそワクワクしながら過程を見守れる。
くどい例えをしてしまったけれど本作が楽しいのもそれなのだ。
結果ヤッてしまうと分かっていながら読み進めて、そしてまんまと”そういう流れ”に発展していった時、興奮と安心が一度にやってきて最高に幸せ。最高のカタルシス・・・!

ちょっぴり情けない男の子や女の子が、それを受け入れてくれる誰かに触れる・・・
というそれだけで、その瞬間の奇跡の価値で涙腺がぶっ壊れてしまうのだ。
コンプレックスがあったり、人と接するのが怖かったり、変化を恐れたり
様々な理由があって、けれどそれを踏み越えてしまう愛おしい瞬間たち。
すこしだけ、男性側が受け身体制のものが多いことが気にかかる所ではあるけれど、まぁ女の子から積極的に来てもらって悪い気がするわけがねぇんだよな(悟)

もとはコミティアで発行された同人誌がはじまり、当時から大好きだったシリーズです。それが連載となりもっといろんな世界の「初情事まであと1時間」をニマニマ楽しむことができるようになった奇跡・・・。500巻くらい続いて欲しい。

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あさは、おはよう -大澄剛短編集- (ヤングキングコミックス)あさは、おはよう -大澄剛短編集- (ヤングキングコミックス)
大澄 剛

少年画報社 2016-12-26
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あさは、おはよう/大澄 剛

あれ、これ去年末発売だった・・・まぁいいや・・・。
書影ではモノクロで少女の笑顔が描かれていますが、これ実際に書店で買うと表紙下部分のイラストを覆うような大きいカラーオビが巻かれていて、それをとると少女の笑顔が現れる仕掛け。
もともとオビと本体が一体となったデザインって大好きなんですよね。
本作で言うと、これが本編を読むとまた二重に意味が変わってきて、「本」としての面白さがある。こういう見せ方や演出で紙のコミックスならではの意味を持たせてくれるの好き。

内容としては家族ドラマだったり青春物語だったり、人情モノのオムニバス6作。
それぞれ単独としても楽しめるんですが、微妙につながりがあったりして、
その中心にあるのが表紙の女の子ですね。
特にすきなのはノスタルジーあふれる少女同士の絆を描いた「イコール」、幼少の恋心との決別、あるいは新たな始まりを感じる「さよならわんぱく」。この2作がお気に入りなですが、短編集として雰囲気も統一されており、ついつい涙腺が緩んでしまうような、優しさと切なさと眩しさが詰まった本になっています。
話題になるタイプではないせよ、素直に、暖かな漫画ですね。
発売年的にルール違反(まぁ縛りという意味で)ではありましたが、触れておきたい漫画だったので。




そんな12作でした。
新作開拓も過去と比べるとかなり減っては来てしまいましたが、なんだかんだで表紙買いとか結構してしまうんですよね。次もこの縛りで更新やるかどうかは分かりませんが。またよろしくお願いします。

高月かのんキレる 『あげくの果てのカノン』3巻

あげくの果てのカノン(3) (ビッグコミックス)あげくの果てのカノン(3) (ビッグコミックス)
米代恭

小学館 2017-04-12
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   私のことを途中で放り出すなら、結局は奥さんを選ぶなら、
   ずっと神様のままでいてほしかった。


いつもタイトルでポエってるけど印象的なシーンがあったので簡潔に。
先が気になりすぎて月スピ購読も始めてしまったキッカケの「カノン」第3巻。
屈折しながらも純粋で、それゆえに圧倒的な熱量を保ち続ける暴走恋愛漫画です。
いま最も目が離せない不倫恋愛×SF漫画であると言える。他に有るかは不明。

過去の記事はこちら。
炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻
一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻

第2巻ではカノンのライバル(と言えるのかはやや不透明だけれど、ポジション的には)となる、境初穂サイドを掘り下げていく内容でした。
3巻はこれまでい無かった形で、カノンの感情が爆発しまくる。

愛しい愛しい、わたしの神様。
あなたから貰ったのは恋と恋の歓びと、傷と失望と、地獄行きの片道切符。



正しいままで清らかなままで、美しい愛を死ぬまで果たしたいと願う。
けれど人の心は移ろう。崇な正義も変貌する。純粋な愛情も風化する。
間違っていると知ってもなお、過去の自分を裏切ってもなお。
生きていくには、現在進行系の己の感情が放つ声があまりにも大きすぎて
それを全てコントロールしきるには人類はきっと幼すぎる。
間違っていると分かっていても、踏み越えてしまう一線があるのだ。

第12話は先輩本人の本心も垣間見ることができる、夫婦のバックボーンが描写される。これが非常に刺激的。かのんフィルターが濃い目にかけられている本編なので、先輩はいつだってキラキラしているんだけれど、ここで先輩の「生の声」を聞くことができる。結果、やはり先輩はなかなかの曲者で、ぶっちゃけクソ男と言っていい。
けれどここで感じるのは、境先輩の心の傷の深さと、麻痺しきった感覚だ。
「どうせこの気持ちもすぐになくなるのに」と、全てを諦観した言葉が重い。彼の背負う使命もまた。

変わってはいけないと自分を律しても、戦うたびに欠損し、補修され続ければ過去の自分が少しずつ消えていく。自分の役目を全うするごとに、自分が少しずつ狂い出す。
あの頃の僕は、なにを大切にしていただろう。なにを尊く守ろうとしていただろう。
全てを受け止めてくれた妻からの言葉は、呪いとなり彼にのしかかる。
そしてそんな彼だからこそ。かのんの存在を気にかけた。
心の芯から永遠の崇拝を信じ切って、自分を慕ってくれる女の子。
境先輩はどんな思いでかのんの恋を、その狂気的な熱量を感じていたのだろう。

彼女の恋の強度を確かめることで、己の絶望を癒そうとしたのかもしれない。
または、すこし意地悪に、彼女を気持ちを試しているような気もする。
「変わらずにいられる感情なんて、本当にこの世にあるのか?」と。

まぁカノンにとっては先輩は神様なので、この世の全てのなにものと天秤にかけようと、先輩が死ねと言えば死ねてしまう人種なので、狂ってしまいっているので・・・彼女の規格外っぷりを、意外と作中のいろんな人達は測り間違えていく。
十分に狂っている世界と物語なんだけれど、その中においても並の狂い方じゃないぜ、この女の子の恋は。



2巻から引き続く、初穂さんといい弟のヒロくんといい、「報われない側」の人たちが本当にいい働きをしてくれる。彼らが新しい顔をみせるたび、悪意という色素をそっとかのんの心臓に滴らすたび、ゾクゾクしちゃうしストーリーはグングン面白くなるし。
いや「報われない」のは果たして誰なのかという事も思うが。

特に初穂さんの、計算高い魔女っぽいところと、すぐに泣いちゃうメンタルの弱さと、かのんに対しては「強い女」として立ち向かうところも、旦那への複雑な愛情も、研究への熱心さも自己嫌悪もなにからなにまでかわいい。かわいすぎる。
そして今回1番頑張ったと言えるヒロくんもかわいい。悔しそうに涙目になる思春期男子ってのは、もう食欲も増すってもんですわ。
ヒロくんなんて、きっと勝ち目なんてあるわけないと知って、それでもうっかり暴発してしまった。
今回からそんな2人がまさかのコンビ結成の兆しアリ。どうなるんだ・・・!!

そんな魅力的なキャラクターたちに手をひかれ、かのんの物語も熱気が増しまくり。
初穂さんの差し金とはいえ、今回ついにかのんは、神様に対して怒りを露わにする。
神様とその信者としてではなく、ひとりの女がひとりの男に対して、物申す。
そりゃあ、酷いことをされているのは間違いないのだから。
境先輩のせいで涙で目も晴らして、人には言えない恋をして、それでも裏切られ続けているかのん。
けれど怒れるようになったということは大きな変化に違いない。
本心を伝えることで、きっと面倒な女だと思われてしまう。嫌われてしまうかも知れない。それでもあなたを好きだからこそ、言いたいこともある。
もっともっと、私を愛してほしい。全てを捨ててでも、私を選んでほしい。
そんな欲深い本性がかのんの中で膨らんでしまっている。
それを口にして本人にぶつけてしまえるほどに、関係は進化している。
あの境先輩に、ビンタだってカマせる女の子になれました。

雨降って地固まる。激しくぶつかった後は、ご褒美ような、甘い逃避行。
目を細めてしまいそうなキラキラ眩しい幸せな時間。
文学的で美しい描写と演出の妙技がいかんなく発揮されております。
不倫という薄暗い関係でありながら、どうしてこんなに美しく、
それこそまるで儚いおとぎ話のような、憧れを感じる光があるのだろうか。




キャラクターそれぞれにしっかりと血が流れているのを感じる作品。
人物描写がリアルなのにエンタメになってるし、それでいてセリフひとつひとつに熱があって、共有したくなる美しさがあって、恐ろしくもあり憧れもある。
読みやすさと、絶妙な間に深いメッセージを感じるような演出の共存がされているのもたまりません。
ベタ褒めですけど本当にこの作家さんは漫画を描くのがうめぇなと思う。

どんどんとかのんが、”生”の女の子っぽく可愛らしく、エゴも強まり、
それでいて恋が深まるごとに誰かを不幸にして、自分すらも傷つけていく。
切ない世界観と、倫理に訴える必死な恋愛模様のバランスも最高。

3巻表紙、今回もやはり風に飛ばされる傘が登場する。
そして作中でもかのんが傘を持たないまま立ち尽くすシーンがある。
傘を持たぬ女、かのん。そこになんとなく、他の人とは違う生き方を選ぶことができる彼女の本質だったり、その内面の痛ましさだったりが感じられる気がする。

カノン3

世界から許されなくても、その想いを貫けるのだろうか。
変わらないものが、たったひとつでも、この世にはあるのだろうか。

『あげくの果てのかのん』3巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
かのんがますますどんどん可愛らしい。雨上がりの夕焼けと呪いのような“I'm Yours”.

危ないひとを 好きになってしまいました。『潜熱』1巻

潜熱 1 (ビッグコミックス)潜熱 1 (ビッグコミックス)
野田 彩子

小学館 2017-02-10
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    持って帰れないなら捨ててください。

女の子ってかわいくて得体の知れないいきものだなぁということを染み染み、深々を感じさせてくれる恋愛漫画の新シリーズ「潜熱」。
ヤクザのおっさんに惚れ込んでしまったウブな女子大生の、静かで熱い季節の物語。
すぐとなりにある非日常と、自分との境界線が、とけてなくなっていくことの恐怖とか、ある種のエクスタシーとか、知らない世界にふっとやってきてしまったようなフワフワとした感覚がある恋愛漫画です。

いわゆる年の差恋愛漫画っていうのだと、アニメ化もきまったあれとかこれとか、人気も高いジャンルではあるんだけれど、そういうキャッチーなものを野田彩子先生が放り込んでくることがまず意外ではありました。
読んだことがあったのが「わたしの宇宙」だったからかな。

それと比べると本作は非常に間口の広い作品でありながら、
言語化出来ない不気味な感情に自分が押し流されていく感覚がリアルに感じ取れる。
切迫したスリリングな駆け引きや、気持ちの変化の断片を嗅ぎ取れる仕上がり。
甘く繊細。それでいてクッキリと光と影を描き出す濃厚なタッチも、「潜熱」という理不尽な感情の暴走を描き出すのにピッタリだ。

「暴力」という、非日常を間近で見る時。
きっと誰しも、心臓が高鳴るはずだ。見てはいけないもの、見たくもないもの、血、破壊、悪意、そういうものから目を背けたくなるはずだ。
主人公はこともあろうにそんな暴力の世界の住人の、しかもオッサンに恋をする。
昔からよく聞くやつだ。ちょっとキケンな匂いを漂わすような男に、女はクラッと来てしまう・・・・・・そんなことあるかぁ????と長年懐疑的な男だったよ俺は。
でも「潜熱」を読むと、その感覚がわかった。
何なのだろうな。このノセガワの意味不明な色気は・・・。
世界のなんでも知っているような高い目線で、知らないことをたくさん知っていて、ちょっとだけ自分を特別扱いしてくれてるような気がいて、
怖くてズルい、『大人の男』。
ダメだよーーーーノセガワは絶対やべぇよーーーーーいい年こいて女子大生のおとなしい娘にちょっかいかけてくる大人とか絶対ロクでもねえよーーーーーー
と叫んでも、ページをめくっているそのさなかには、俺自身のそんな叫びも俺に届かない。
ノセガワさん・・めっちゃシブい・・・格好いい・・・。ロリコン趣味だけど・・・。

潜熱1

おそらく年齢よりも少々幼かった主人公・瑠璃も、みるみるその表情を変えていく。
うぶだった女の子が、いつしか覚悟を秘めた、どこまでも堕ちていきそうな暗い色を、その表情に宿していく。
瑠璃の心がジンと震えるとき、しずかに絶望するとき、ノセガワの言葉に体を熱くするとき、
彼女は本当にいい表情をする。ノセガワも言うほどだ。それはもう、そそるのだ。

おそらく彼女自身、冷静な頭で理解できていた部分もあったはずだ。
触れてはいけない。近寄ってはいけない。好きになっちゃいけない。
けれど「いけない」と脳みそが繰り返すほどに、心は疾まる、熱は高まる。
理不尽なばかりの感情に押し流されて、にじませた言葉をかわされながらも目で追って、そうしてその背広の綺麗な薄い背中に、こびりついた煙草の匂いに、ノセガワの残酷さに、瑠璃は絡め取られていく。
どんなにヒドイことを言われても、自分がただの都合のいい女に過ぎなくても、
あなたは私を見てくれる、褒めてくれる、綺麗だと言ってくれる。

騙されていたっていい。私が選んだんだから。

第一巻のクライマックスの彼女の独白で俺は陥落。
俺はこういう、わけの分からない女心を、そのシナプスの仕組みを、漫画を読んでいるときにだけわかったような気になるからこういう漫画が大好きなんだよ!(酷い)
言葉にできないような複雑な感情を、ほどかず噛み砕かず、そのままを
空気に溶かし込んで、こちらに届けてくれる抜群の描写力もあり
メランコリックで透明ですこしくすぐったい、そして胸を熱くする物語になっているのです。

ヤクザが物語の中心として描かれるも、直接的なバイオレンス表現は少なく
それが逆にノセガワという男の、”熟練”感が増している。
101ページのノセガワの手のアップもドキドキするなぁ。こんなに無骨でエロい手。
そしてさっきも書いたけれど主人公の瑠璃の変貌っぷりにゾクゾクきますね。
こういうタイプが逆に極道のママとして染まってしまうのかもしれない。

どうも、重版とかしてけっこう売れてるようでうれしいです。
2巻もばっちり買う予定。第一話はこちらから試し読みできますよ。



『潜熱』1巻 ・・・・・・・・・★★★★
悪い男を好きになる。そういうのもきっとわるくない。潜む、熱。ピッタリのタイトルだ。
小学館の青年誌の女性主人公漫画は、こういう路線ホント強いな。

過去も未来も かなしみもよろこびも全て 『僕だけがいない街』9巻(外伝)

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   誰かいませんかー?

ヒット作となった「僕だけがいない街」第9巻。
本編は8巻で完結しており、9巻はサブキャラクターたちに焦点を当てた外伝集となっています。
9巻として出たのでやや分かりづらい仕様かもしれませんが、内容は充実の一冊。
ヒットした後に、しかも本編が終わったあとで出る外伝って、いかにも商業的な事情を勘ぐってしまうものではあるけれど、大事に描かれていることが伝わってきました。

僕だけがいない街
そこに刻まれた時間こそ 僕の宝物だ

本編最終話に登場する、主人公のモノローグです。印象的。
いろんな解釈はあれど、主人公の口から語られた本作タイトルのひとつの答えでもあり、この作品のストーリーを思い返しながら噛みしめると、染み染みと、主人公の感動や切なさや、誇りと感じられるものが、たしかに伝わってきます。

9巻はいわばそこの、「僕だけがいなかった」街の日々を描いた群像劇。
誰もがあの悲劇に縛られながら、しかし主人公が確かに変えることができた日々。
様々な角度からもう一度物語を見つめ直す、番外編にして最後の一幕。

僕だけがいない街91

装丁も、特別感があります。実際手に取ると分かるんですけど、「Re:」の形でニス?で加工されています。こういうの好き。家でシュリンク破るまで仕掛けに気が付きませんでした。




『雛月加代』
中学に進学した雛月からスタート。彼女は真相を知らないけれど「自分のためにひどい目に合せてしまった」と人一倍、悟に対する罪悪感が強かった彼女。やはりというべきか、ずっとずっと、献身的に悟の看病をしてくれていた。
本編でも一部語られていた内容ではあるけれど、悟が眠りについているあいだの雛月というのは非常にドラマチックな要素でもあり、読めて嬉しいです。
個人的には最初本編で雛月があの形で再登場して、おもいっきりドキンとさせられたんですが・・・・・・・・こうして見てみると、大正解。中学の雛月、みちゃおれん。

この作品は大人がきちんとカッコいいのも好きだったポイントで
本エピソードはやっぱりかあちゃんが素敵すぎるんだよなぁ
雛月の描写は痛々しくもあるけれど、こんなに多彩な表情を見せてくれて、すごく生命力を感じるんですよね。そういう意味でも、悟の行いの価値が、ここで輝く。


『小林賢也』
いやぁ・・・本編最終話はいいブロマンスでしたね・・・。BLとも違う、友情とも違う。けれど非常に強く結びついた男と男の、使命を共有し戦いを終えた者たちのドラマ、その終着点・・・!!
というわけで主人公・悟のよきパートナーであり理解者であり、ともに事件を追った小林賢也少年のエピソード。
今にしても思えばアホですけど、ミステリアスなキャラだったせいで、本編読んでる最中はじつはコイツが犯人の可能性は・・・?とか考えていました。
しかし今回で彼の中身がすべてわかりましたね。
優等生がゆえの達観や苦悩、そして自らを恥じ、人間としてみるみる成長していく姿を見ることができます。いやぁ、出来た両親だなぁ・・・。
クールだった少年を、情熱が突き動かしていく。シンプルに熱い。


『藤沼佐知子』
作中ナンバーワンのイケメンキャラ。通称かーちゃん(通称ではない)
母親という立場からよりハッキリと悟の動きを見てきた人物でもあり、母親であることからそこに複雑な思いも抱いてきた女性キャラクター。
離婚という過去が悟に与えた影響というのが実はあんがい大きかったのだというのが今になって分かるんだけれど、母親からすると、息子の成長というか変化って本当に著しいものだろうなとも思う。だってある日から突然、息子が中身だけ年食ったんだもんな・・・。
しかし彼女の視線から物語を見ると、俺は彼女を超人的な女性だと思っていた部分があったんだけれど、それは違ったんだなと思う。彼女の素質もあるが、母親なりの気付きが大きい。注意深い観測・観察のなせた技だったのだ。
「でかした あんた達」といい、本当に心強い言葉をいくつもくれた。
母子のキズナもテーマのひとつとなっていた本作だけに、非常にエネルギッシュな番外編でした。読めてよかった。


『片桐愛梨』
本作ヒロインの、本編最終回の直前までのエピソード。
彼女の底抜けのポジティブさというか、キラキラした佇まいって、きっと過去に戻る前の主人公に影響を与えていただろうし、つまり本編の重要人物に間違いない。
ただ、過去の事件に迫るというメインストーリーである以上、どうしても後半からは彼女の出番が少なかったのが寂しかったな・・・が!やはりヒロイン!最後は持っていく!
多くは語りませんが、そしていつの頃かは知りませんが、
物語はコミックスのカバー裏へと続くのです。
その2人分の足跡は、8巻最終話とも見事にリンクしており、いやぁいい終わり方。

しかし雪に閉ざされていく、静寂が際立ったラストシーンのなんと美しい事か。
舞台が雪国であり、そして本編も、時効となり人々の記憶から消えていく事件を解決するための物語だった。
「雪に覆い隠されていく」ことそれ自体が、この作品を鮮烈に彩る風景だった。
覆い隠されたものを暴き、そしてまた未来は雪に閉ざされていく。




という感じで、個々のキャラクタの視点から空白の期間を描いた番外編。
きっちりと8巻で完結した作品ですが、蛇足にならずにうまく読者がみたいポイントを描いてくれている一冊だと思います。
特に傷ついた雛月・ミステリアスな少年だった賢也のエピソードは、作者がなくなく本編から削ったというのが納得の内容の濃さでした。

これでいよいよ一連の「僕だけがいない街」シリーズも完全完結かな。
とても読み応えのあるミステリー漫画でした。著者の新作も楽しみです。

『僕だけがいない街』9巻(外伝) ・・・・・・・・・★★★★
外伝集。読みたかった断片たち。そしてやはり物語の雪の中で終わっていく。
一貫したテーマを感じます。

たったそれだけのための万能薬 『売野機子のハート・ビート』

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   じゅりがアパートから出て行ってしまった
   おれたちの にせもののアパートから


今でもひとりでアジカンの「ソルファ」や事変の「教育」を聞いているときは立ちあがってエアギターをしているので、根本的に10年前からなんら進歩がない。
漫画を読むのと同じくらい音楽を聞くのも好きで、大好きなものが2つも一緒に摂取できると小躍りしてしまう。音楽漫画が好きです。演者側でも、リスナー側でもいい。音楽が流れている漫画が好き。

そんなわけで「売野機子のハート・ビート」もドンぴしゃ。
もともと大好きな作家さんだったんですけど、今回のテーマはもうズバリ音楽。
まずこの作品集のこのタイトルをつけるのがニクいですよね。
「売野機子のハート・ビート」・・・短編集に作家名が冠せられてるのも、まるでラジオ番組名のように感じられるのもかっこいい。
ラジオ番組のようだというのはまさしく、本作はナビゲーターである著者が、いかに読者を心地よく楽しませラストシーンに運ぶかをきっちりと計算し1冊に仕上げられている感触もある。その点で言えばラジオ番組とも言えるが、ミュージシャンのミニ・アルバムに近いかもしれない。

ハート・ビート

各話の行間にはプレイ画面まで表示されて、デザインも細部に拘りが光る。
絵柄がレトロな少女漫画を思わせる作風なのに、細部には現代的なエッセンスが盛り込まれていて、そのギャップも甘酸っぱい。

全4曲。いろんな角度から、「音楽と生きる人」「人に寄り添う音楽」を描く。
すげぇ面白いってわけではないんだけどすげぇ好き。そんな本。



『イントロダクション』
有名バンドマンがとある夜明けに、一般人の女性に一目惚れする。
無骨だがロマンチストな性格の主人公。彼がこれまで歌ってきた歌詞になぞるようにシンクロしていくストーリーがとても美しいです。
この作品に登場するヒロインとか、後述する「青間飛行」のLULUとか、まさしく売野機子作品のヒロインの王道をいっている。言葉数が少なく、覚めたような顔をして、冷たい言葉を放ちながら、強く強くぬくもりを求めている。不器用な女性だ。
本作には「ああ、この瞬間って素敵だ」「こういうとき、相手を好きだと思う」というような、瞬間瞬間のロマンチシズムというか、
甘酸っぱい感触だけを遺していく断片がいくつも重ねられている。
ストーリーもしっかりしているけれど、本当に詩集のようだ。
夜明け前、過ぎるヘッドライトが君の髪を1本1本を照らしていく。

ヒロインの詳細はネタバレになってしまうんだけれど、彼女からすれば望み続けた音楽を手に入れた形にもなって、それに自分の血を混ぜていくんだろう。
彼女の執念が現実に勝ったとも言えるけれど、主人公からしても彼の空想が現実に塗り替えられていく感覚があるはずだ。男女ちがった立ち位置からひとつの曲に接していて、そして人生が交わった瞬間に、より強く光る。
パッと眩く照らし出される瞬間に宿る、男女の甘い夜の物語。

・・・冷静になればなるほど、ヒロインが恐ろしくなるけどな!!




『ゆみのたましい』
貫かれるような力強い言葉がとにかく印象的な一片。
おねショタものだが、一筋縄ではいかない、初恋のストーリー。
高名な音楽家の母をもつ主人公のぼく。音大受験のために母に教わるべく、ぼくより6つ上の女子高生ゆみが家にやってきて、ふたりの交流が始まる。
音楽がもつ残酷な一面が描かれていて、たとえば本作では音楽にまつわる才能の話だ。ただ寄り添うだけの優しいものではなく、時として人は音楽に”選ばれる”。そして選ばれなかった人だっているのだ。

ヒロインのゆみは、恵まれていて、きっと幸福だった。
そこを主人公のぼくは幼さゆえに勘違いをして、勝手に寂しくなって、自分の知らない世界の巨大さを知る。
少年が、大人の世界に触れてハッとする瞬間に、切り刻まれたようなショックって尊いよなあ、大事だよなぁ。
けれどそんな時に、ゆみが放つとっておきのセリフが心に染み込む。
モヤモヤした気持ちがすっと透明になるような感覚がお見事でした。




『夫のイヤホン』
このコミックスでは一番好きな作品かも。
これは音楽と仕事をする人間ではなく、ただの一般市民にまつわるエピソード。
専業主夫をしている男性が、昔のヒット曲をテレビ番組で聞いてから、なーんかひっかかる感覚に囚われしまう。ずっとイヤホンで昔の曲ばかりきいてしまう。
違和感の正体を探っているだけなのに、いつもと違うようすの旦那さんに奥さんも慌てふためいて可愛いったらありゃしない。

思春期の生きづらい日々の中。
親の言葉も遠い。友人の言葉も見当ハズレ。自分の言葉も見つからない。
答えを知りたいのにだれも答えてくれない孤独の毒に犯されていく。
きっとそんな時に救ってくれたり、答えをくれたり、そもそも悩みを忘れさせてくれる・・・そんな役割と、10代の時に聞く音楽というのは担ってくれている。いや音楽に限定せずに、なにか夢中になれることとか憧れとか、とにかく自分だけが浸れる別世界というのは、本当にあの時、頼りになるのだ。
本作における音楽というのも、そういった面をフィーチャーしている。
音楽と思い出は、俺たちの中で血管につながれている。

人生は地続きで、昔聞いていた曲を再び聞いて、当時を思い出し立ちすくむ時だってある。けれど今きいている音楽を、10年後、どんな時に再び聞いているだろうか。
夫婦の空気感も大好き。穏やかな顔して、自分にとってのやわい部分を鋭利に突いてくる。それでいてポジティブで、音楽への情熱も過剰ではなく、馴染みやすい。
いい漫画だなぁ。俺はこういうぬるい漫画、大好きなんだよ。




『青間飛行』
大ヒット歌手のLULU。彼女はとある男からのインタビューしか受けなかった。
ところがその男(主人公の上司)がアメリカに渡って別の仕事を始めるってことで白羽の矢が立ったのが春紀。音楽ライターの主人公だ。
音楽ライターの仕事ってどんなのだろうっていう意味では、面白い世界を覗けてワクワクする短編となっている。
同時に、気難しい女性歌手のバックボーンから始まり、仕事を通じて音楽で繋がった男女の、遠く薄く秘密めいた、甘酸っぱいストーリーへの向かっていく。

LULU、大人の世界で怯えて縮こまる少女でしかない。圧倒的な才能のせいで、だれにも彼女は笑顔を晒せられなかった。
そんななか、主人公の上司だけは彼女に歩みよった。

上司は、どんな遣り取りがあの日にLULUとあったか、話そうとしない。
それは彼自身も、話したくない美しさをあの思い出に感じていたんじゃないかな。
恋心とかではなく、人と人の心がつながれた瞬間の、微かな振動を。
LULUが青空を仰いだシーン、映画のワンシーンみたいで泣きそうになった。




そんな感じで音楽をテーマにした短編集。
どれもこれも、いろんな角度から音楽と人の関係を描いていて堪らない。
人を選びそうな作風ではあるけれど、刺さる人にはきっとぶっ刺さる。
今後も、おぼつかない、美しい、不器用な物語を描いてほしい作家さんです。

音楽の持つ作用って時に恐ろしく、時に優しく、いろんな言葉で音楽について語る本作は
自分の中にまた新しい音楽観を作ってくれたようにも感じます。
最後に本作で印象的なモノローグを。

おれたちは
ゆらぐものと
ゆるぎないもとの
波間を遊ぶ



『売野機子のハート・ビート』・・・・・・・・・★★★★
好きな音楽を聞いているとき、普段より少しだけマシな自分になれる気がする。
それだけ。たったそんだけの万能薬。

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楽園に花束を

プロフィール

漣

Author:漣
「さざなみ」と読みます。
漫画と邦ロックとゲーム。
好きなのは思春期とかラブコメとか終末。

連絡先。
omuraisu0317あっとyahoo.co.jp(あっと→@に)

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基本毎日います。記事にしない漫画感想とかもたまにつぶやいてますので、宜しければどうぞ。

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