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正直どうでもいい

こんな名前ですが好きな漫画の感想をかくブログです

[漫画]その永遠を刻む、鋭利で優しい少女たちの愛。『魚の見る夢』2巻

魚の見る夢 (2) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)魚の見る夢 (2) (まんがタイムKRコミックス つぼみシリーズ)
(2014/01/10)
小川 麻衣子

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   これで私のこと 忘れられなくなったでしょ?

すごい…すごく良かった…!!それしか今は言えない!
小川麻衣子先生のおくる百合漫画「魚の見る夢」2巻、完結巻です。素晴らしいです。個人的にははやくも2014年の俺的BEST10に入ってくる予感がしました。
ここまでうねりのあるストーリーになってくるとは。期待していたけれど、期待以上だった!
1巻を読んでいる人にはまず言いたい。こっからが本番だ!そしてそもそも未読の人にも言いたい。読んで損はしないぞ、と!(…合うならば)

「インモラル・ストーリー」を掲げるだけあり、肉親である姉妹の関係を描いた作品。
1巻は甘くも苦い束縛が心地良い作品だな、という感じでしたが、2巻はフルスロットルの全開モードでして…。
すれ違って、傷ついて、裏切って、笑って、怒り、焦がれ、涙する。精一杯の少女らがもがく水底。ただよう無限の情念。絡み取られるかのような凄みがここにはあります。
胸いっぱいの痛みと、研ぎ澄まされた鋭利さと、芯まで温まるような優しさが内包されている。そんな、ひとつの「家族」の物語です。

この作品は芳文社の百合アンソロジー「つぼみ」にて不定期掲載されていたシリーズ。しかし知っての通り「つぼみ」は休刊となり、つぼみのWebコミックとして何度か掲載されましたがWEBも閉鎖…しかし単行本で無事、完結!たっぷりの描きおろしを加えてフィナーレを迎えました。
以前「ちゃんと単行本で完結させる」という告知はあったものの、やはりちと不安でもあったわけです。しかし見事にそれは吹き飛ばされました。
そんなわけでつぼみコミックスシリーズのラストを飾ったある意味記念的な作品。
中身も、極上の一冊となっています。大満足…!

1巻感想→息苦しい…けれど離れられない私たち。『魚の見る夢』1巻

そして完結巻の発売に合わせてというすこし珍しいタイミングで特設サイトができています。
試し読みもできますのできになったらこちらもチェックしてみては。

以下、ネタバレを含んでしまうので注意をお願いします。
ところでこの2巻表紙、御影の指にドキドキしますね?



1巻クライマックス、夏祭りの直後から2巻は始まります。
感情をしずかに炸裂させ迫る妹・御影ですが巴はそれを受け入れられない。

人を好きになる重み。人の「好き」を受け止める責任。おなじ女同士だから、血の繋がった妹だから、という理由で悩むよりもっと巴は根源的な悩みに直面しています。
きっと好きにはいろんな種類があって、家族として親友として恋人として、様々な愛はある。
けれど巴は「人を好きになるって何…?」「人を好きになったことがない…」と泣く。

魚21

巴にとって「好き」という感情は、細かなカテゴライズがまだ施されていないように思えます。どんな風に好きなのかよりもまず、好きの意味を知らなかった。
母をなくし、父には敵意を見せる彼女にとって家族として頼れる安らぎが少なく、もしかしたら「好き」を理解するような心の余裕すら無かったのかもしれない。
そういう意味では巴に欠けた愛を教えるのはやはり家族の役割でもあるし、結果としてそれは実の妹である御影が果たしたと思えます。
あとがきでも述べられていたように、百合であり、姉妹関係でもあり、そして「家族の再生」を描いた作品として達成されたテーマがありました。

●高柳さんへのファーストキス
ここからは気になったポイントごとに書いていく形でかいていきます。
御影に片思いする素直な性格の女の子、高柳さん。
巴に対しては嫉妬の念を抱いているように見える彼女ですが、2巻では御影と彼女とのドラマが作品を突き動かす要因にもなりました。また御影の変化・成長を促した大事な一瞬がありました。
その一瞬こそがこの作品中でもトップクラスの名場面だったと思います。

「あなたを悲しませたくないから受け入れた」なんて、優しいけど残酷な失敗を犯した。
なかばヤケのように唇を重ね身体に触れさせた御影はほんとうにずるいなと、そりゃ高柳さんも崩れ落ちるわと。
稲妻のように一瞬できらめき燃えて、一瞬でもう取り戻せないくらいに離れ傷ついてしまった2人。
そこから御影は「人に想われる責任の重み」をはっきりと理解できるようになります。
巴に対して自分がしてきたことも顧みて、彼女はここから明らかに変えていく。

この作品、後述もしますがいくつかの「大切な一瞬を刻む行為」が描かれています。
甘美でもあり冷酷でもあるその一瞬は、高柳さんと御影にとって、あの秘密のキスだったのだと確信できる。一生消えない恋と傷。

魚22

「でも ただ一つ  初めてのキス 高柳にあげたよ」
あまりにも美しく、懺悔と神秘が織り込まれた光景が、言葉にならないくらい胸を衝いた名シーンです。ぐおおお切ねー。でもこういうのに身悶えしたいんだ。

●父親の存在とその視線
なにゆえ巴と御影がこんなにこんがらがってるのかって、父親の存在による部分が大きいわけです。1巻では少ししか見えてこなかった「父親」が、いよいよ登場。

ナチュラルにダメ人間だなぁと感じさせられる描写も数多くありますが
ゾクリとさせられるのは、自らの娘を性的に見つめる視線(88P等)です。
彼にとって失ってしまった妻の面影はいまも鮮明で、妻とよく似た御影にむける眼差しは、父親のものではなく非常に男性的。
幼い少女たちがそれに怯えるのは無理もないし、父親としての振る舞いの中にはどこか「この少女を掌握したい」チックな欲望が透けて見えるので、やっぱりこいつダメ野郎だな。

ただ父親のラスト登場シーン(160P)では、御影を見つめながら描いた絵が高評価されているわけで、娘である巴への嫉妬も抱いています。彼は負の感情を昇華できる芸術家なんですね。亡き妻、そして御影への執着を持ち続ける限り彼はしぶとく絵かきとして生きていきそうな気配。
糾弾されるべき父親ではあるけれど、彼にもそれなりなエンディングが用意されているように匂わせてくれるのがこの作品の優しさのポイントで気に入っています。

作品テーマは「家族の再生」でありながら娘たちが父親と決別、あるいは相当な距離を置いて完結するあたり、「家族であっても無条件に寄り固まるのではなく、適切な距離はあるよね」的メッセージはあるのかもしれない。

家族でありながら、娘たちに複雑な感情を抱いたまま遠くにいる父がいて。
家族でありながら、家族としてだけじゃない関係を求めたがった少女もいる。

様々な家族のあり方の中で、ベストな距離を模索する…そんな作品だったのかもしれない。気持ちの整理をつけることもまた再生と言える。

●砕け散ることで永遠を手にした少女
ここが本作の一番の見どころ。クライマックスらしい最高の盛り上がりをみせてくれた!胸が張り裂けそうな切なさと狂気が高まる、素晴らしい百合ドラマでございました…!!

こごえる水底にあるひっそりと佇む、灼熱の海底火山のような。
冷たく重く揺るぎない、すべてを燃やし散らす激しい愛。

物語の核心に触れる部分であり、ここは実際に読んでその凄みを味わっていただきたい。
ひとりの少女が奏でる悲劇的でひとりよがりなクライマックスは、理解できそうで理解できない、手の届かないもどかしさが絶妙。それでいて胸をえぐっていかれる。ぽっかり空いた心の喪失感のようなものは読んでいて自分も体感しました。

彼女はその裏切りを「相互の補完」と呼んだ。なんで傷つけたのかと問われ、「“私も”傷ついたわ」とこたえた。あの一瞬があれば生きていけるとまで言った。
すごいなぁ、ゾックゾクきますよ。理解できそうで理解できない、女の子の情念。こういう異物感を楽しみたいから百合漫画を読んでいる部分もあるのかもしれません。
少なくとも自分には及び付かない領域に、彼女たちはすんなりと魂をなじませていて、恐怖とあこがれみたいなのがごちゃまぜになりますわ。
裏切って、傷つけて、ひどいことをして、自分を相手の記憶に刻み込んでやりたい。忘れられない存在になりたい。そのために手段を選ばない。恐ろしく刹那的な生き様だ……!

とは言え、卒業式で「顔を見せて」と言ったときの“彼女”の動揺。これは、彼女が超越した存在なのではなくやはり人間の女の子なのだとわかる感じで、これも突き刺さるシーンです。
巴ははっきりとした笑顔で「さようなら」といったけれど、彼女の「さようなら」は表情を見せない背中越しの言葉でした。きっといつも通り優しそうな微笑みを浮かべていただろうけれど、あの時の去り際、彼女はどんな表情だったんだろう?巴の「さようなら」を見たあとは、それが一層気になってきます。でもそれは描かれない。こういう演出が上手いんだよなぁ…!

魚23

“彼女”こそが一番のクセモノでしたが、彼女もまた水底でもがき苦しんだ少女のひとりであって、再度1巻から読み返してみると感慨深いものがあります。そこかしこに、予感めいたものを読者に向けてちりばめていたようにも感じます。
あとがきページのイラストでは彼女もしっかり未来へ向かっていて、きっと強い女性になるだろうなと思い馳せてしまいますね。

●巴と御影の未来
クライマックスでは巴が感情を炸裂させ、御影がそれを大切に抱きとめるような展開。これまでとは役目を入れ替えたその関係性に、胸が熱くなりましたね!
そわがままな妹に囚われながらもちゃんとお姉ちゃんらしいお姉ちゃん。けれど心細くなったときには、妹が姉を抱きしめるんだなぁ。

それにしてもようやく巴のわがままな部分が出たなと思った。
1巻第5話では「前に進みたい」と家を出たがる発言をしていましたが…

魚24

巴は、前に進みたいわけでも変わりたいだけじゃなく、逃げたかったのだ。御影は1巻で「都合がいい」とこれを責めていましたが、正しかったのかもしれない。自分の理想を押し付けて、自分の殻にこもってしまう。我慢に我慢を重ねてきた巴が不満をぶちまけたのは、読んでいて不思議と感動的でした。
そしてこのシーンの御影の言葉は重く、高柳さんへの思いも織り込まれた、大切な内容でした…。
積もり積もった息苦しさから読者をも開放するかのような、未来のための前向きな言葉!
これまでは巴を縛り付けていた御影が、最後は解き放つ役割を担うというのは、いい展開でしたねぇ。

最後の最後、「震えが止まるまで…」と妹に抱きしめてもらった巴の表情に感無量。
強くありたいと願っていても、甘えたかったんだよなぁ。誰かに頼りたかったんだよなぁ。よかったよかった…!

読み終えたらもう一度見てもらいたいのが、第1巻の冒頭のカラーページ。
鮮やかすぎて言葉を失いました。すごい。狙ってたんだな。
そこからどこまでだって行ける旅立ちの場所から、2人はどこに向かうんだろうな。いやはや、完成度のたかい、その先を夢想させてくれるラストでした。



そんな「魚の見る夢」完結第2巻でした。
情念の漂う水底の住む、恐ろしいまでの愛に魂まで浸した少女たち……。
精一杯にもがいている感じも愛おしく、そこに宿る愛は恐ろしく、読み応えがありました。

1巻は展開の起伏にやや乏しいところがあり、それでも雰囲気の良さで気に入った作品でしたが、2巻は明らかにブーストかかって面白くなりました。演出面、ストーリー面ともに、ゾクゾクさせられる魅力があります。
気持ちがグラグラ揺らされて、それがまた心地よいのです。
「魚の見る夢」とはいいますが夢というほどあやふやでなく、確かに現実で進み始めたのも清々しい。

少女の心を繊細に、そして高揚感あるストーリーで描き切った本作。
小川麻衣子先生の新たな百合モノを読みたくなる出来栄えでしたね…!
「ひとりぼっちの地球侵略」も軌道に乗っていますが、こういう路線もたまらんです。
サンデー超で読んだ「インタールード」からこの作家さんのファンですが、短編も得意とする作家さん。物語の〆方が余韻あるセンチメンタルな感じですごく好きなんですよね。百合漫画のみならず、これからも良質な作品を届けて貰えたら読者としては嬉しい限りなのです。

『魚の見る夢』2巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
完成度のたかい全2巻。百合モノに抵抗がなければぜひ…!
めちゃくちゃ鋭利で優しい、少女たちのいろんな愛の物語です。

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