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正直どうでもいい

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一生の恋を確信する瞬間、そして誰かを裏切る。『あげくの果てのカノン』2巻

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米代 恭

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   私の『希望』は、先輩の苦しみや、彼の妻を、踏み台にして、やっと『恋』になる。
 
「あげくの果てのカノン」2巻が出ています、結構前に。遅くてすんません。
今年1巻がリリースされた作品の中でもかなりお気に入りな一作。
不倫恋愛×SFという悪魔的合体、そして主人公の暴走とともにストーリーもカオス。
崩壊した世界でたっひとつの想いに振り回される、かわいらしい、悪党の物語だ。どうしようもない片思いの顛末の物語だ。誰かを不幸にすることでしか完結しない恋だ。誰かを。己を。

前回→炸裂する無垢なる狂気 『あげくの果てのカノン』1巻




1巻がとんでもない所で終わったのですが、しすかに幕を開ける第2巻。
呆然としたまま、変わりない日常にもどるかのん。
あの一件の後になるとその日常が守られてることの価値を、痛いほど感じる。
変わらない世界の代償に、変わって変わって変わり果てていく先輩に、胸が締め付けられる。
そんな所にやってくるのだ。超、重要人物!

kanon22.jpg

奥様襲来!

「今度はあなたなのね」という、ああもう、こんなヒドイ言葉ってあるのかと。
明らかな敵意をもって目の前にたつ彼女に、かのんは立ち向かえるわけもなく。
大好きな男性に世界でたったひとり選ばれた女性に、凍てついた視線を浴びるのみ。

きましたねー、非道徳的な恋愛をしているシチュエーションにおいてこれは重大イベント。
個人的にはまだまだ先の話かと思ったら、2巻からガッツリと奥様・初穂さんが絡んでくる展開。
かのんがしていることは。かのんが抱く想いは。初穂さんを傷つける。
それと知っても恋をやめられない以上、かのんと初穂さんは火花散らせるしかない。
だめなことだとしても、好きな人のあたたかさに触れてしまったとき、世間体なんて単なる「つまらない話」に成り下がってしまう。

不倫と覚悟して踏み込んだ部分は間違いなくあって、そもそも報われると思っていたわけでも無い。
けれど目の前に、自分の恋が万が一成就したときに転落させてしまう人物が現れたとき
どこまで想い貫くことができるかは、ひとつの分岐路だと思う。
「恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲーム」って、不倫したミュージシャンも歌ってた。
そしてかのんは今回、ひとつの決心を持って、いや決心もできぬまま、周囲を巻き込んでいく。



この作品は適度のアニメチックで、そして純文学的でもあって
読んでるとき、セリフのひとつひとつに、かのんの淋しげなモノローグに、まるで耳をそばだてるかのように慎重に文字をメでゆっくりと追いながら読んでしまう。

2巻はスタンダールの恋愛論から引用がされていて
「恋が生まれるには、ほんの少しの希望があれば十分だ。」のフレーズが登場する。
まさにこの作品にぴったりだし、ひねくれた脳みそしているので一瞬立ち止まってしまえば「しゃらくせぇ!」と思ってしまうようなポエミーな演出にも感じる。でもやはり、そんな小さな恥ずかしさは吹き飛んでいく。いやむしろもっとしゃらくささと出していってほしい。こういうの大好きだから。
この作品は神秘的に聴かせてくれる。言葉が持つ小さな棘までも、ありのままに操っている。
湧き上がる切なさ、行く当てない絶望、血管を駆け巡る興奮、狂信的な恋のありさまを。
余すこと無く。
作者が慎重に、絵と言葉を紡いで漫画にしていることが感じられるんですよね。

かのんが先輩の顔に触れたときの「私は今、神さまに触れている。」ははっとさせられるような、グロテスクさと祝福を感じました。
グロいって先輩がじゃない。あの場面そのものが。

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「正しい」という言葉の意味を、もう一度見つめ直したくなる。
8年間思い続け、叶わなかったはずの恋。それが果実のようにいま目の前に実るとき、
『どんな控えめな女でも、希望を見た瞬間 目が血走る』。




変わり続ける先輩。かのんにキスをしたあと「ごめんね」と言った先輩。
先輩に愛されることの幸福と、「不倫する先輩」を信じられない、アンビバレンスな混乱が彼女の脳内をぐるぐる巡る。
問い詰めるかのんにたいして、先輩があきらめたような表情とともに言ったセリフが
どこか作り物めいた印象の先輩らしからぬ、人間くさすぎるセリフでたまらないのです。
「人はそう単純いられないから」と。
ドキッとしますよね。どんなに体がおかしくなっても先輩は人だし、生きているし、ときに間違えを犯す。
そして浮き彫りになる、かのんの強烈な信仰心と盲目。
かのんは、先輩を人として、自分と同じ生物として、捉えられているだろうか。
そこに強烈な距離がないだろうか。

不倫をする。自分にたいして冷たい声をかける。
そんな新しい先輩のいち面すら、かのんにとってはある種ファンタジーのようなものなんだろうなとも思う。
究極的には自分が満たされたいだけのエゴをいつしか見出されてしまう。
自分の恋に「発狂」する彼女の姿は、人間として根っこにある汚い部分、幼い部分、そしてとてもかわいらしい部分のように感じますね。見ていて危なっかしくて仕方がないけれど。

先輩にまつわる思い出のエピソードに、パッヘルベルのカノンがありました。
内省的な少女だった幼いかのんは、自分の名前がコンプレックスだった。
自分には到底似合わない、美しい名前だと言って。
しかしそこに境先輩がパッヘルベルのカノンをピアノ演奏したことを知り、
かのんにとって自分の名前が、価値あるものに変貌する。
先輩はある彼女からコンプレックスを拭い去り、本当に救済となり得ていたと分かる。
「生きる希望」とまで呼べてしまうほど、強大すぎる存在感。
そう考えると今の2人の距離感ってすごいことなってるよな。キスまでしたぞ。




さてさて、2巻ではさらにサブキャラクターたちの心情も描かれだして
これまた一層ストーリーが面白くなってきています。
かのんの弟と先輩の奥さん。当事者と家族として接してきた人物のうちに秘めた感情とは。
悲恋萌えをこじらせるとかのんの弟くんとか可愛すぎて仕方がないし、
初穂さんも、いまの彼女を形成した歴史が紐解かれたことで、魅力がうなぎのぼりってもんです。
第10話とか幸せすぎて何も言えなかったですからね。
境さんの恋人として、また妻として、研究者としてどんどん新しい一面が見えてくる至福。

戦闘による欠損修復によって書き換えられていく個人の人間、「心変わり」。
初穂さんは研究者の立場からその現象について理解をしてたし、それをさせないための研究に熱意も燃やしていた。・・・現状、自分の旦那の心変わりを止める手立てはないが。
旦那が浮気をしていることを知っているし、むしろなんかめっちゃ隠しカメラで観察している。
その上で旦那を牽制する。
いっときの浮ついた感情より「結婚」という契約の重大さを、その価値を。
まるで隠しナイフをつきつけるかのように、彼女は彼に問うのだ。
初穂さんの側からこの物語を観たとき、あまりにも残酷で、ゾクゾクする。

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そして印象的だったのが、かのんが友人と不倫の恋について話していたときに出た
「結婚って、なんなのだろうか」という問い。
ここでは、いろいろ変化があるのが当たり前だから互いの変化を許し合えるようになっていく「結婚」なのかな、という表現がされている。
この作品がもっと未来へと進んだとき、登場人物たちはそれぞれどんな答えを持っているのだろうか。一度ここに立ち返って比較してみるのもきっと面白いはずだ。



そんなこんなの第2巻。
1巻も面白かったが、正直2巻から一気に加速してきたように感じます。
ここまで来て、恋愛漫画に抵抗がない人にはひろくおすすめできる領域に来たような。
織り込まれてた様々な立場のキャラクターの感情と、理屈をときに凌駕する暴力的な恋心。
甘酸っぱくて、ほんのすこし血の味の混じった、ダークでポエミーな作品です。

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ああ、かのんのこの眼が、夢を見るばかりの人間ではなくなっていて
寂しいやら嬉しいやら、きっと不幸が待ち受けると知る、悲痛な覚悟だ。

改めて2巻の表紙を見てみる。
崩壊した都市、
夕焼けの世界、
着たままのレインコートと風に流される雨傘、
かのんのむかう先には先輩が待つ。けれど地続きではない。彼女はそこにたどり着けるのだろうか。
かのんは先輩に「やさしくしたい」と言う。先輩を苦しめているのは自分なのに。そして先輩を苦しめられるほどに彼の人生に食い込めたことの幸福と残虐な信仰が並び立つ。
先輩を思って無邪気にストーキングしてたときの方が、よほどいい顔していたのに。

『あげくの果てのカノン』2巻 ・・・・・・・・・★★★★☆
めちゃくちゃ面白い、おい・・・感情揺さぶられまくる。じっくりと世界に浸りたい。

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